目には見えないもの。

 多くの人が知っているように、もちろん光も電波も実態は同じもので共に電場と磁場からなる波だ。でも、僕達の目には可視光しか見えないので、懐中電灯や蛍光灯から光が出ているのとアンテナから電波が出ているのが全く同じ現象だとは実感しにくい。携帯電話から基地局まで電波が届いているというのが一体どういうことか、携帯を懐中電灯に置き換えて考えてみれば、それがどれだけ強烈なことなのかイメージできると思う。1キロ先の基地局まで電波が届くということは、部屋の中に置いた懐中電灯の明かりが窓から漏れ出て、ビルだとか道路だとか色々なものに反射したりしなかったりしてそこまで届くということだ。それって結構な明るさですよね。見えないけれど携帯電話からは24時間そういう光が出ているのと同じことです。ただ電波が目に見えないだけで。

 実際に目に見えないものを想像するのは難しいけれど、簡単に「ああ、見えないけれど本当にあるんだ」と実感することのできるものがあります。

 赤外線ですけれど、テレビのリモコンもエアコンのリモコンも携帯の赤外線通信(どこで通信しているか分かり難いから可視光通信にすればいいと思う)も全部赤外線を使っています。本当に当たり前だけど、赤外線が見えないけれど出ています。そして、この赤外線はそのままでは見えないけれど、簡単に可視光に変換することができます。使うものはデジカメか、別に携帯電話でも良いです。たとえば携帯をカメラモードにして液晶画面にリモコンの前面(テレビとかに向ける方です)が映るようにします。そのまま画面を見ながらリモコンの何かのボタンを押せば、リモコンの先端かどこかがピカピカと光るのを見ることができるはずです。肉眼では見えないけれどカメラの画面では見える。

 これはデジカメの受光部であるCCDが赤外にも感度を持っているせいで、たぶんカメラとしては好ましくないことだと思うから、もしかしたら高級なデジカメではそういうことはないのかもしれないけれど。

 残念ながら手元にあるもので簡単に携帯から出ている電波を見ることはできないけれど、リモコンで起こったのと同じことが実際には起こっているわけです。見えないと「ない」は全然違うことだし、携帯の電波が見えたら使う気がなくなるのは必至だろうなと思う。もしも携帯の電波が見えたら、夜寝る前に電気を消してもどんなに部屋が明るいことだろう。携帯の電池が立て続けに膨れ上がって発熱していた時期があるけれど、あれは携帯のバッテリーにいかにたくさんのエネルギーが蓄えられているのか、ひいては携帯がいかに電力を消費しているのかということを象徴している。そのけして少なくないエネルギーは2ギガだか3ギガだかの電波として今いる部屋の中を煌々と照らしているというわけです。