silicon.

 昨日は朝から大学にロームの方が来ていて、面白い話を聞いた。エンジニアリングというか、製品を開発して売る、みたいな話を聞くのは本当に久しぶりだったので、とても刺激的だった。2,3年前までI君としきりに会社を興そうと言っていて、いつのまにか二人とも「やっぱりアカデミックに研究していこう」となっていたものの、今でもときどき会社を作って何かを売るのはとても面白いだろうなと思う。何かの製品のことを考えるときはとてもうまく頭が働いている感じがするけれど、物理のことはまだ暗中模索なので何を考えればいいのかも良く分からない。

 話の中で日本の製造業がいかに没落しつつあるかというのをデータで示して頂いて、恥ずかしいことに僕はそういうことを知らなかったので驚愕しました。いまや日本の特に電化製品、エレクトロニクス製品というのは世界の片隅のものでしかありません。僕は密かに日本の携帯電話なんかも世界的に高い水準だろうと信じていましたが、シェアは僅かに6パーセントくらいです。しかもこの6パーセントは日本国内の携帯電話を作っている10社の合計な訳ですけれど、残りの94パーセントというのは海外のわずか4,5社くらいで占めています。だから日本の携帯を作っている会社の1社当たりのシェアは単純に平均すると1パーセントを切っていることになります。いかに日本の会社が貧弱か見て取れます。

 携帯電話だけではなくて、他のたとえば液晶テレビなんかも元々日本がやり始めたので数年前までは80パーセント以上のシェアを取っていましたが、今では20%を切っています。グラフで見ると物凄いスピードで没落している。船舶と自動車を除くほとんど全ての製品で日本は力を急激になくしているので、なんと国連だかどこかから警告が出ているそうです。笑い話みたいですけれど、本当に。このままだと15年後、日本の生活水準は世界で40番以降に落ちます、と。ちなみに今はかろうじて10番だか20番だか、忘れたけれどその辺りだそうです。

 日本には戦略がない。というか元々アジアの人間は戦略というものに慣れていない。と、その方はMITとか台湾とかでも教鞭をとっていらっしゃるようで言っていた。「たとえばこういう経営学の、戦略の問題を出すと、MITの学生は6,7割が正解を出すけれど、アジアでやるとほとんど正解を答える者がいない」 ただ、そうはいうものの中国や韓国、台湾はものすごい努力をしているので(さらにアメリカが戦略的に援助をしたということもある。たとえば理工系で中国NO1の精華大学はもともとアメリカが引っ張りぬく人材を育てるために作った。多くの日本人にとっては何その中国の大学?という感じだろうけれど、東大の少なくとも10倍くらいは優秀な大学です)
 だから、もちろん全製品がというわけではないけれど、未だに中国製だから質が悪いとか、韓国製だから、というのは時代遅れのイメージに過ぎません。今でもサムソンってなんか怪しい感じの電気メーカーだなと思っている人はまだ多いと思いますが(僕の母親なんかは確実にそう思っている)、世界的にみれば日本の家電メーカーよりもずっと信頼があるし、たとえばソニーのテレビの中身を作っているのは実際にはサムソンです。

 話の途中で「この中で起業している人、または起業している人が知り合いにいる人?」という問いかけがあって、3,4人が手を上げた。ついで「そのなかで1億円以上に会社が大きくなった人?」と問われると今度は誰も手を上げない。
「アメリカで自分か知り合いが起業した人、と聞くと全員が手をあげます。1億円以上に成長しているかと聞くと、1割が手を上げる。日本はこんなものでしょ。ほとんど全員サラリーマンになるわけでしょ。どういうことか分かる? 会社を作って人を使うのは外国人が多くて、日本人はどこかに入れてもらって誰かの下で働くんでしょ。このままだと、やがて日本人は全員外国人の作った会社の下で操られて働くことになるということですよ。危機感を持ってください。あと英語が話せないというのは何も物を言えないのと同じですよ」

 ただ、日本が一時期実際に工業立国であったことは確かで、日本ほどバランスよく全ての工業インフラがハイレベルに整っている国はないという。実際に今でも技術力は高いし、一部の精度高く加工された材料なんかは日本でしか手に入らない。だからそういうのをうまく利用して日本もまた頑張ろう、というような話だった。

 もちろん、これは工業に限定した話だ。
 べつに日本製品がそんなに出回らなくても構わないし、他にこの国がやっていける手立てがあるなら全然構わない。全員サラリーマンでもだからなんだって、言えなくもない。グローバリゼーションがすすんだのでローカルがなくなって、ある分野で生き残ることができるのは1社しかない。英語を話さなくてはならない。競争に勝てない。シェアがとれない。
 こういうことは、一つの古いパラダイムに基づいた話でしかない。生き残る一つの会社を目指すということは、シェアを取ることに力を注ぐというのは、そのままそういった厳しい社会を作るのに加担していると読み替えることができる。かといって僕は共産主義のようなことを唱えるわけでもなく。やっぱりこういうことに関しては途方に暮れるばかりです。
 ただ、このシャイな日本人は、寡黙な民族はそう簡単にやられはしないと思う。国際的な場所で何も言わないからといって、何も考えていないというわけではない。