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 昔、ヤフーオークションで買った物を送ってもらうのに「別にどっちでもいいけれど都合が悪くないならクロネコで」ということを頼んで、「クロネコは評判が悪いから佐川にします」という返事を貰ったことがある。別にどっちでもいいわけだけど、でも、クロネコの集配所は比較的アパートの近所にあるので、不在通知を貰った場合すぐに取りに行けて便利だなと思ったわけです。
 あるBMXショップのサイトを見ていたら「佐川は荷物の扱いが乱暴だからヤマトで送ります」みたいなことが書いてあった。

 二つの言い分は真っ向から対立するものだけど、どちらも正しくないのだろうと思う。僕が思うに、たぶんどちらも一度か二度ヤマトなり佐川なりで嫌な目にあっただけのことだと思う。運が悪かったのだろう。あれだけたくさんの荷物を扱っているのだから、たまにはミスも起こるに違いない。もちろん統計を厳密にとって両方の会社を比較することは可能だ。だけど、そんなに有意な差が出ることもないのではないかと思う。

 僕がここで言いたいのは、どちらの運送会社が良いのか、ということではなくて、両者がこういうことを主張する動機みたいなもののことです。
 もしかしたら、本当に理由のある評判みたいなものだってあるのかもしれないけれど、この人たちは単に「私はあなたよりも色々なことを知っています。たとえば運送会社なんてどこでも同じと世間の人は思っているでしょうが、私は詳しいので実はここは駄目でここが良いことを知っています。あなたは知りませんよね」ということを主張したいだけなのではないか、ということです。本人が意図しているがどうかに関わらず。ヤマトで一度嫌な目にあって、そのとき「よし、ヤマトは駄目だってこれから言おう、運送会社に詳しい感じで」と思ったのではないかということです。根拠なんてない。一度悪いことがあっただけでその会社を査定することはできない。それは彼も良く理解している。だけど、知ったかぶりをしたいという欲望に押されて、ついそれだけでは分からないということを無視してしまう。答えはたぶん存在しない問題なので、別に間違っているもなにもない、ただ大きな声で断定しておけばそれで済む話だ。もしかしたらこの人はそれを体験したんじゃなくて、誰かに聞いただけかもしれないけれど。そして、僕がこのとき「なんか詳しそうな人がヤマトは駄目って言っているから、駄目なんだろうな。詳しくなった」と思い、友達が荷物を送ろうとするときに「ヤマトは駄目だって」と得意げに言えば、次は彼も同じことをまたするのだろう。

 多くの人が、忠告や情報の授与のためでなく、自分の威信を誇るために下らない情報を人に伝える。そして、ときどきほとんど全ての情報がその程度の信頼性しか持たないように見えて恐ろしくなる。インターネットではあまりにも多くの人々が断定する形で何かを言うように見えるからだ。断定がもっとも高い頻度で用いられるところがどこかを、僕達は悲しいくらい良く知っている。それはコマーシャルだ。
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