sf.

 子供の頃僕が住んでいた町にも、レンタルビデオと書店が一体になったような店があった。僕の記憶が正しければ、夜はせいぜい10時だか11時くらいまでの営業時間だったはずだ。もう20年も前の話で、ツタヤが至るところにできる遥か以前のことになる。その店の名前はビブロスという名前だった。もしかしたら、倒産だか経営陣の交代だかで一度くらい名前が変わったかもしれないけれど、僕はビブロスという名前しか覚えていない。今から思えば、ビブロスはちっぽけな田舎の本屋兼レンタルビデオに過ぎない。だけど、当時の僕にとってみればそれは大きな店だった。家のごくごく近所にある個人経営の本屋や個人経営のレンタルビデオに比べて、ずっと大きくて品揃えが良かった。だから僕はビブロスへ行けばどんな映画も借りることができるし、どんな本だって買うことができると思っていた(後に紀伊国屋ジュンク堂へ行って驚愕することになる)。インターネット以前の田舎の子供の限界というものが本当はそこに明示されていた。

 週末に僕はそこでときどき映画を借りた。ディズニーのアニメも大抵は見たと思う(もちろんビブロス限定下で)。あるときアンパンマンの第1話を期待に満ちて妹と借りると、どう間違えたのか中身が「ウルトラマンを作った男達〜円谷幸吉の生涯」みたいなビデオで、落胆のあまり泣きそうな気分だった。仕方なくみてみるとそれはそれで面白くて、僕にとってはじめてのプロジェクトX的番組だった。

 この頃自分が一体どういう映画を見ていたのかはあまり覚えていない。基本的にはハリウッドのアドベンチャー映画だとか、ジャッキー・チェンの映画だったような気もする。
 そんな中、藤子不二雄のSF短編集を見たことは結構良く覚えていて、なんというかストーリーは覚えていなくても、雰囲気みたいなものは忘れない。子供にとってはちょっと怖い話だったけれど、強烈だった。最初はドラえもんに近い乗りで借りたのに、見てみると怖くて不可解で、だけどぐんぐん引き込まれて、僕は藤子不二雄という人物に対する見方を改めた。

 そういうことを全部すっかり忘れていて、随分大人になったある日、ネットで「変ドラ」というサイトを見つけた。そこではドラえもんに潜む狂気みたいなものを(ときどき無理やりに見えるけれど)取り出していて、僕は短編を作った人と同じ人がドラえもんも作っていたのだと、当たり前のことにようやく気がついた。

 今日はなんとなくそのサイトのことを思い出したのでこれを書きました。
 実際、ドラえもんというのは僕の中のかなり大きな部分を本当は占めているのだろうなと思います。

 変ドラ http://hendora.com/