12。

 11月最後の日は、みんなで鍋をして、思いがけず懐かしいM君とかAとかもやって来て、気が付くと朝の5時になっていた。そうして、僕の2007年12月は始まった。年末の浮かれてざわついた空気のなか、今月僕は引越しをして新しい生活を始める。

 12月2日。
 大学の西門を入って少し歩くと、空に違和感を感じた。そうして見上げた空には一匹の鳥と、そのすぐ傍に謎の浮遊物体があった。僕は本当に一瞬それが何なのか分からなかったけれど、良く見てみればそれも鳥だった。ただ、その鳥は完全にホバリングしていたのだ。驚くほどくっきりと一点に。
 僕はもう長い間日本に住んでいるけれど、空に鳥がホバリングしているのを見た記憶がないし、ホバリングする鳥なんてハチドリくらいだろうと思っていた。でも、この日は灰色の鳥が空でホバリングをしていて、それはたまたま風がいい具合だったからできた、という種類のものではなくて本当にきれいで、完全にコントロールされたホバリングだった。
 気になって調べてみると、ヤマセミという鳥はホバリングするそうです。写真を見てみると僕が見た鳥にそっくりだから、たぶんヤマセミだったのだろうと思う。水辺の鳥みたいだけど、この辺りを良く飛んでいるのだろうか?

 寒いなと思いながら、背中を丸めて自転車に乗っていると、犬が鼻をつんと上に向けて、遠くの匂いを嗅ぎながら嬉しそうに歩いているのに遭遇した。犬は寒いくらい平気なのだろうな。僕はどうしてこんなに寒いのが嫌なのだろう。

 寒い、熱い、痛い。
 危険でネガティブな感覚は色々あるけれど、どうして僕達はそれを「嫌」だと感じるのか、いつも疑問で仕方がありません。怪我をして安静にしなくてはならないのに痛みを感じなければ動き回ってしまうから、というようなのは全然答えになっていないと思うのです。それならば「これはやばいから動いてはいけない」ということが分かる信号が来れば良いのであって、「嫌」がそこに伴う必要はないはずです。

 すこし古い日本のポップスをサンプリングして、簡単な音楽のようなものを作ろうと、いくつかの古いPVをネットで芋蔓式に見ていると、広末涼子のなんとかという曲のPVが出てきて、それが始まった瞬間に僕は軽い衝撃を覚えました。無理矢理なポップ感とニカニカ笑う中国の子供のような糸目の顔、黒髪のショートボブにややぎくしゃくしたガーリーな動き。そう、それは小沢健二そのものだった。
 だからなんだ、と言われれば、今はまだなんとも言えないのですが、僕の中では何かと何かが繋がって何かがちょっと分かったような感覚があります。