inorganic.

 風邪をひいてしまいました。
 木曜日の夜くらいからなんだか様子が変で、金曜日の朝に目を覚ますとそれは確信的な風邪に変化していた。どうしてもやっておきたいことがあったので、金曜日は研究室へ出て、土曜日と日曜日は部屋でだらだらとしていて、それなりにテレビも見ました。

 日曜日にやっていたニュース番組で、アルマーニにインタビューを行うものがあった。なんだかぱっとしないインタビュアーが、最初アポ無しでアルマーニの自宅を訪ねて門前払いされ、後日事務所を通してアポを取り彼の仕事場へ入れてもらっていた。驚いたことにその日本人のインタビュアーはミラノコレクションの準備をしているアルマーニを見つけると彼の元へ近づき、そしていきなり「コレクション前は緊張するものですか?」とマイクを向けて質問した。自己紹介も何もない。気を利かせた通訳が「日本から来ている取材チームが質問をしたいと言っていますが、よろしいですか?」とその場を取り繕っているところに、アルマーニの秘書が割り入ってきて、「質問する前に私を通せ」と日本人は怒られていた。その後、質問をしようとすると「5分待ってくれ」とか「忙しい」とか言われてなかなか取材ができず、どういうわけかインタビュアーは安藤忠雄に泣きつく。安藤さんはアルマーニの社屋か何かを設計していて彼とは親交があるからだ。そこで安藤さんが最初に言った一言がもっともな言葉だった。「まあ世界の壁は高いと思えばいいんじゃないですか」

 結局、あとで10分くらいのインタビュー時間を貰っていたけれど、当然まともなことは何も話せないまま途中で終わった。テレビで報道する価値がどこかにあったのだろうか。ミラノコレクション直前のアルマーニにアポ無しで取材をしにいってうまく行かないというのは当たり前のことだ。そしてインタビュアの態度は不躾だし相手を撮影の対象としか考えていないように見えた。たぶんまともなインタビューの時間なんて取れなくて良かったんじゃないだろうかと思う。僕には彼らがまともな質問を用意できたとは考えられない。

 ここでテレビの文句を言っても仕方がないわけだけど、僕はこのテレビを見ていて怖くなった。
 インタビュアが何の躊躇いもなく、何の自己紹介もなくマイクをアルマーニに向けたとき、その無機質な感覚にひょっとしたらこの人は人間とは別の存在なのではないかと思った。それは丁度、ある人々が自動販売機とコンビニエンスストアのレジで全く同じようにしか振る舞わないのに似ている。

 ときどきインターネットにおける匿名性と、それがトリガーとなって発露する人間の残酷な言葉使いが議題にあがるけれど、これらの問題は何もインターネットの中にしか存在しないわけじゃない。近所付き合いにしても何にしても、人を人と思わない行動を、僕も結構とっているような気がする。人間は群れで生きることを選択した種だから、本当はこういうのはとても重大な何かを損なっているのかもしれないなと思う。今更ですが。たぶん僕はもう少しオープンになるべきだろうな。