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 今日は、少しおかしなことを書きます。かなりオカルト染みて、とんでもない話です。僕のことを、気が狂ったのではないか、と思われる方もあるかもしれません。だけど、一つの可能性として。

 昨日、池谷裕二さんの「進化しすぎた脳」を読んでいると、被験者が好きなときにボタンを押す実験のことが出てきました。いつでも自由意志によってボタンを押せばいいわけですが、被験者の脳をモニターすると面白いことが分かります。それは「ボタンを押そう」と思う前に運動をつかさどる脳の部位は活動をはじめる。ということです。
 これを解釈して「僕達は体が勝手に動いていて、そのあとに自分がそうしようと思ったのだ」というふうに捕らえることができます。これに類する実験は僕も読んだことがあるので、このような考え方があることは以前から知っていました。じゃあ僕達の意思とは一体なんなのだ、と恐ろしくなる考え方ですが、解釈としてはありだと思います。僕達は自分の意識でではなく無意識で動いていて、意識はそこに「これは自分の選択した行動だ」という言い訳を載せるだけだ、という解釈。

 しかし、この考え方にはやっぱりうまく馴染めない。馴染めないというか、そうではなくて僕達は自分の意思で行動しているのだ、という希望を持ちたい。
 そのためには上の実験をこのように解釈するという手立てもある。「運動部位が活動をはじめたのはもちろん自分の意思であり、その時点から含めて意識的だとする。単にそれが意識に上るまでには時間がいくらかかかるだけのことだ」
 だけど、今までの脳科学の見地からすれば、これはおかしな話かもしれない。

 そこで、僕はある仮説を立てた。その仮説について述べる前に、2つ話しておかなくてはならないことがある。

 1つ目は、ロジャー・ペンローズのことだ。ペンローズは天才的な物理学者で、ホーキングと一緒にブラックホール特異点理論を打ち出したりした。子供のときから神童振りを発揮していて、たとえば騙し絵で有名なエッシャーは幼いころのペンローズが書いた落書きに触発されてあのような絵を描くようになったと言われている。
 物理学、数学で輝かしい業績を積み上げてきたペンローズは人の意識と脳に関する著作「皇帝の新しい心」を出版して一躍世間一般の人間にも広く認知されるようになった。ただし、その内容は「新しい物理学が意識の解明には必要なのだ」とした上で、「細胞にある微細管内での量子力学的な効果が意識の形成に一役かっている」というもので、この仮説は四方八方から大々的に攻撃される。

 2つ目は量子力学、主に量子電磁力学のことで、これは今までで最も高い精度の成功をみている物理理論なのですが、その中ではときどき時間の前後というものは入れ替わり、ときには時間を遡る粒子というものも平気で現れる、ということです。電子というのはマイナスの電荷を持つものですが、プラスの電荷を持つ陽電子というものも存在していて、これは時間を逆行する電子だと解釈できます。
 ただ、一応断っておくと今のところ量子力学を用いて過去を操作する、というようなSFみたいなことはできていません。理論的にそのような可能性があるのかどうかも分からない。

 ここまで書くと、もう僕が何を言いたいのか大体の予想はつくと思いますが。そう、僕はペンローズの説を受け入れないでも、脳の働きに量子力学が影響をしていることはそれがこの宇宙に存在している以上妥当なことだし、もしかしたらところどころでは時間の流れが反対になっていることも有り得るのではないか、ということを言いたいのです。だから、動こうと思う前に動くための脳活動が起こる。

 もちろん、異常なことを言っているのはよく分かっているし、これを大々的に押し出すことのできる理屈を僕は持ち合わせていない。でも、脳と意識というのはすでに科学では説明できそうにもないくらい不可思議なものだ。だから、その深部にあるメカニズムについて僕達は異常な仮説を持つことができる。
 それから、進化というものを考慮すると、意識してから実際に体が反応するまでの時間は短いほうが素早く動けるので有利だし、神経での信号伝達速度や脳での情報処理に時間的な制限がある以上は、「自分が意識したより前の時刻に行動が始まる」という選択枝は”なんでもあり”ならば当然取られるものだと思う。

 だから、あくまで仮説として、僕は「脳内の情報処理においては一部時間が反転している」という可能性のことをしばらく考えてみようと思います。