ファルコン。

 先日から小沢健二のことを書いていますが、そういえば彼の「うさぎ!」という子供向けに書いた物語の冒頭をここで読むことができます。僕は昨日読んだのですが、大人になると結局のところ資本主義に嫌気がさすものなんだなと思いました。
 僕ごときがこんなことをいうのもなんですが、彼とはほとんど全く同じ思想を共有しているのではないかと思います。


2006年11月9日木曜日

 不動産屋さんから「多めに見てるんだけど、はやく除けてください」と言われている、アパートのガレージにおいている変な椅子をKちゃんがばらして照明の部品に使ってくれるというので、彼女をその下見に案内する。それから、今日はいい天気だね、とのんきな会話を交わしているうちに、僕はパン屋へ行ってパンを買って川へ行って食べよう、と思い始め、そう考えているとKちゃんが「パンを買って川へ行こう」と言うのでびっくりする。誰しも同じようなことを考えるものなのだ。
 天気がいいからみんな川へ行くせいなのか、やけに混雑したパン屋さんでパンを買って、川沿いのベンチに陣取って牛乳でパンを食べて、川の鳥や空の雲などを眺めていると、隣のベンチに変な男2人組が座って、一人は白昼堂々と中国拳法の真似事をするのでびっくりする。
 そうこうするうちに、飛び石を渡り、川の向こう側から白いウサギのような犬が現れた。27歳になって、犬がかわいい、なんてあまり言いたくはないけれど、それはもう奇跡のようにかわいい犬だった。間違いなく僕の今まで見た中でダントツ1番かわいい犬だ。今まで、犬は汚くて弱ってるようなのがかわいい、と言っていたけれど、この犬は元気できれいでかわいかった。犬というよりもウサギだった。耳がウサギの耳なのだ。ウサギ犬。
 それはどことなく「ネバーエンディングストーリー」のファルコンに似ていたので、僕たちは勝手にその犬をファルコンと呼び、その後しばらく飼い主のおじさんを放ったままそこらを走り回るファルコンを眺める。ファルコンが遠くまで走っていっても、飼い主のおじさんはベンチに座ったままで追いかけないので、お互いに放任なんだね、と言っていると、おじさんはカバンから双眼鏡を取り出してファルコンの行くへを追い始めた。なんだ、やっぱり気になるんじゃないか。
 大学へ戻り、研究室で話をしていると夕方になる。Kちゃんは実験へ戻り、僕は計算を少しだけする。
 「自炊完全廃止」宣言をしている僕は、夜ご飯を食べにいつものように食堂へ行くもものの、いつも通りのメニューに嫌気がさしてスーパーマーケットへ行ってしまう。
 夜中は特に行きたいと言う訳でもないけれど、どのようなことをしているのか気になっていたイベントを見にメトロへ行く。エントランスで久しぶりにTさんに会うと、「ロックの子が今日はまた」と言われる。僕だってちゃんとおしゃれなイベントに行ってたのに、と反論。イベントは思ったとおりの音楽と映像。ナイトクラブってもう飽和してるな、と思う。というか、多分僕がそれほど音楽を好きだとは思っていないからかもしれない。実は、僕は別に音楽が好きだと言うわけでもないし、映画が好きだというわけでもないし、取り立てて好きなものは思いつかない。物理学だって、好きというのとはちょっと違って、それは現に僕の生活を見ている人ならばすぐに分かることだけど、力の限り勉強から逃げていて好きだなんて到底言えない。僕が物理学で食べて生きたいと思うのは、それが好きだからというのではなく、それがなんとなくしっくりくるからにすぎない。そんなに仕事に没頭しなくても、なるべく暢気に仕事をして、夜には仲のいい人々でおいしいご飯を食べることができればいいと思う。