No1.

 どうして人は死ぬのだろう。
 どうして僕たちは失わなくてはならないのだろう。
 どうして僕たちは通り過ぎなくてはならないのだろう。

 ときどき、この世界を恨めしく思う。
 真夏の立葵が咲き乱れる裏庭と都忘れへ水を撒く古びたジョウロの先に。

 楠の木陰で眠る夢見心地の男は、太陽と月と星とを全部一度に見たいと願う。

 僕は炎天下のアスファルトを歩いた。空には高く、白い入道雲が立ち上がり、木々の森からは蝉の声が煩く響き渡る。
 僕は炎天下のアスファルトを歩いた。路傍に転げる蝉の死骸をスニーカーの底で打ち砕く。

 変化など一体誰が望んだというのだろう。
 一体何を繋ぐというのか。

 僕は打ち水の上を歩いた。庭先の艶やかな水色ビニールプールに5人の子供が笑う。
 僕は打ち水の上を歩いた。振り返ると、痩せた猫が蝉の死骸に口を付けた。

 「アイスクリームを買いに行きましょう」

 
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