タピオカ。

 昨日は友人の短い映画撮影を手伝いに行きました。僕も少しだけ出ています。
 それで、その帰りにみんなしてお茶をして、なんとなく話がアイデンティティについて、みたいになって、僕はそこで今まで思っていたことをうまく言葉にまとめることができました。

 それはワープの話に端を発します。
 ここ数年の量子力学に関する実験は、発展がとても目覚しくて、情報を瞬時に遠隔地に送る量子テレポーテーションを実現してしまいました。理論的には無限遠まで瞬間的に情報を送ることが可能です。そして情報というのは情報単体で存在するものではなく、「何かの物理量」を媒体として表現されるものなので、情報のテレポーテーションができたということは、物理的な何かを遠隔地に転送した、ということと同じです。将来的には「物体」のテレポーテーションは可能になる。

 ただ、このテレポーテーションには注意が必要です。

 今、地点Aから地点Bへコアラを転送するとします。
 Aでコアラの情報を全て読み出し、その情報をBへ送りBでコアラを再生します。

 このとき、AのコアラとBのコアラは「頭から爪先まで全ての状態が等しい」としても、同じコアラではないですよね。なんというか、僕たちはそれを「同じ」だとは思えないですよね。だいたい、Aでもともとのコアラを消滅させないとしたら、Aにはオリジナルのコアラが残って、Bに表れたのは「コピーに過ぎない」ということになります。これは転送ではなくて、コピーの製造です。

 ここでは、かわいそうですが、オリジナルのコアラは情報を読み出されると同時に消滅することにします。そうすれば、見かけ上はコアラがAからBへ転送されたように見えます。Bに現れたコアラはAのときの記憶をそのまま持っているので、「自分はAのコアラと同じだ」と思い込んでいるし、他の人から見てもAとBのコアラは同じにしか見えません。だから、なんだか怖いことに不都合は生じない。Aで消されたオリジナルコアラの「死」を無視すれば。

 僕たちはAとBのコアラを「異なる」というスタンスを取ります。やっぱり、同じでも同じだとは思えない。

 でも、もしもAとBの2点が極々近いとしたらどうでしょうか?

 さらに、もしもAとBが全く同じポイントだったらどうでしょうか?

 コアラはAで瞬時に解体されて、瞬時に復元される。
 これでも、やっぱり解体前と復元後のコアラは別物ですよね。たとえ時間のラグがなくて連続に見えても、やっぱり別物です。

 そして、時間0のうちに解体されて復元されることと、そのときに解体も復元も何も施されなかったこと、はほとんど同じです。
 加えて、我々の体はあらゆる瞬間に「変化」を起こしています。0.001秒前と今は全く同じ状態だ、ということはありえません。体のどこかで何かが変化しています。

 前々回くらいのブログで僕は、意識の連続性というのは単なる錯覚だ、と書きましたが、ここにきて新しい書き方をすることができます。

 僕たちはあらゆる瞬間に死んでいる。
 そして、すこしだけ元とは異なったコピーをあらゆる瞬間に作り出して、それを自分だと勘違いしている。