ニューヨークシティ。

 夜中に長い電話をする。

「私、落ちぶれたよ。今あったら、変わった、って言うと思うよ」

「そんなことないさ。華やかな世界にいるじゃん」

「華やかなのは環境だけで、私自身はぜんぜん華やかじゃないもの」

「それなら問題ない。華やかになら1秒でなれる。今から華やかだと思えばそれでいいんだよ。とても簡単なことさ。華やかな環境に身を置く方が難しいことで、君はもうそれを達成しているんだし、どこにも問題なんてない。今この瞬間に全ては解決した」

 春の静かな真夜中に、京都と東京の間を電気が行ったり来たりして、僕はもう夏の雨の日以来会っていないAの声を聞き、自分の声を発した。
 グレープフルーツジュースを一口飲み込んでから僕は言う。

「来週、東京へ行くよ」

 窓を開けると、冬を思い出すために降ったような季節外れの雪が、白熱電灯の明かりに照らされて緩やかに落下していて、その一片はベランダに置いた洗濯機の上に溶けた。はやく五月の晴れた日がやってきて、間の抜けた鳥達が飛ぶのを眺めながら洗濯ができるといいと僕は思う。
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