大楽団、世界を行く。

 出掛けるときに郵便受けを覗くと、ハンガリーのBから絵葉書が届いていて、そこには、日本はもう春のように暖かだと聞いた、とピンクのペンで書いてあったけれど、まさかそんなことはなくて、相変わらず溶け残りのかすかな雪が濡らした黒いアスファルトと、光だけは明るい空を眺めて、そんなことないんだよ、と僕は言った。冬は相変わらず京都盆地に居座っている。
 でも、ハンガリーという国はもっともっと寒いのだ。

 先週、みなみ会館でWと一晩中映画を見た。「ジプシー音楽ナイト」。ジプシー音楽にまつわる映画を立て続けに4本。
 僕たちが映画館に着いた時は11時半を過ぎた頃で、席はほとんど満席だったため、仕方無しに前から2列目に座って、首をへんな角度に曲げて既に始まっている映画を眺める。2本目、3本目と進むに連れて、だんだんとお客さん達が大音量のジプシー音楽の中で眠り始める。Wは宣言通り(彼女はこの日とても早い朝から活動していた)にときどき眠ったり起きたりしていて、僕は4本目でダウン。
 映画館を出たのは朝の7時前で、とうぜんすっかりと朝で、冷たい空気の中を通勤や何かの人に混じって地下鉄へ歩いた。

 それからすこしして、僕はインフルエンザになり、ふらふらしながら病院へ行こうとすると郵便受けにMからCDが届いていた。彼のバンドのCDだ。ちょっと嬉しくなって、ややしゃきっとしたふりをして病院へ行って、部屋に戻って封を破るとメッセージと一緒にきれいなジャケットワークのCDが出てきた。でも、頭がくらくらして音楽はとてもじゃないけれど聴けない。
 インフルエンザがよくなってから、僕はそのCDを大きな音で聞いてみた。Mとはその昔バンドを組もうといってお流れになったことがあるので、妙な感慨があった。京都にいたころ、彼はギターリストだったけれど、今はドラムを叩いていて、僕は時間の流れを感じ取る。男子三日あわざればなんて言うけれど、本当だなと思う。