バブルガム・ミュージック。

 この間、Aちゃんと京都タワーに登った。ちょうど太陽が山の向こうに落ちて、京都盆地には夜がやってくるところだった。自動車のヘッドライトとビルのこれみよがしな灯りが世界を支配しようとしていた。風が強くて、展望室は穏やかな晴海に浮かんだタグボートの中みたいな揺れ方をした。Aちゃんは京都タワーに登るのが初めてで、展望室に入ったときに、私すこし今感動している、と言った。

 地面を見下ろすと、さっきまで僕たちが話をしていたコーヒーショップが見える。僕が紅茶とサンドイッチを食べる間に、彼女は紅茶とサンドイッチとケーキとココアフロートを食べた。そこで、僕は彼女にこれから僕たちの登る京都タワーについての見解を簡単に述べた。とはいっても、僕は京都タワーに関してそんなに沢山言うべきことを持ってはいない。それは若干スペーシーで、ちゃちだけどなんだかんだ言ってもなかなか素敵なのだ、ということしか言えないので、あとはみうらじゅんの意見をそのまま拝借して、「みうらじゅん曰く、低さに吃驚するって、なんか彼はタワーの上から地面を歩いている友達見付けたことあるらしいよ」と付け加えた。

「ほんとうに道を歩いている人の顔見えるね」

 展望室の窓から、地面を覗き込んで彼女は言った。
 コンクリートアスファルトで舗装された地面の上を、無数の人間がどこかからどこかへと移動していて、それはとても規則正しい動きのように見えた。ある人は建物に入り、ある人は出て来て道を歩いていく。そのまま視線を遠くに飛ばすと、街をぐるりと取り囲む低い山々の連なりまでごちゃごちゃと建物が続いていて、それはつまり道路も続いているということだった。僕はカビのコロニーの発達のしかたとベルリンの街の発展の仕方がとても良く似ている、という話をした。

「これだけのビルを作るのに一体どれだけの労力と時間がかかったんだろう」

 僕は子供の頃からいつもそのエネルギーの莫大さに畏怖を感じていた。信じられないくらいにたくさんのものを人類は作って壊してきた。

「大半は要らないものだと思うんだ」

 僕たちの労働。そして、その労働が生産するもの。要らないものを作る為に恋人や友達や家族といる時間を捨てること。その要らない物の中から発生したパソコンと携帯電話で間接なコミュニケーションをとること。直接なコミュニケーションを放棄して得たものは労働と間接なコミュニケーション、それからすこしばかりのトッピング。
 僕たち人類は60億人もいて、それぞれが大体1日に2000キロカロリーを必要とする。一日に12兆キロカロリー。本当に必要なものはそれだけだ。とてもシンプルなこと。でも農業を捨てたようなこの国で、僕たちは食べられないものを毎日生産している。それは本当は生産ではなくて消費にすぎない。

 なんてうるさいことを言いながら僕たちは展望室を回った。ここでパーティーを開くのはどうかという下見も兼ねているのだ。低い天井にスプリンクラーが付いていて「禁煙」だと書いてあった。たぶん誰かが煙草を吸うとスプリンクラーは忠実に水を僕らにぶちまけるに違いない。

 地上100メートルから今度は地下に潜って、僕たちは電車に乗った。そして世界を混乱させる為の悪巧みをヒソヒソと話した。風は冷たくマフラーは暖かい。トルコ製のマーブルチョコレートを橋の上からばら撒いて僕たちは叫んだ。「モンキー!」。


アイデン&ティティ―24歳/27歳

角川書店

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