テルミン。

 ドキュメンタリー映画「テルミン」を見た。
 電子楽器の元祖であるテルミンを発明したレオン・テルミン博士、その他テルミンに関わった人々のインタビューと昔の映像で編まれた作品。

 荒い白黒画面に焼きついた古い時代の記憶。若き日のテルミン博士が、恋人と一緒に映っている。二人はタキシードとドレスに身を包み、部屋の中でカメラに向かって微笑む。

 フレットも鍵盤もないテルミンという楽器の可能性は、楽譜に書かれた音楽の、楽譜には書かれていない部分を演奏できるということにもある。
 音楽と楽譜の関係は、僕たちの思考と言葉の関係に似ている。音楽は楽譜には収まらない。思考は言葉には収まらない。

 僕たちは失い続ける。時間が流れ、歳をとる。何かが伝えられ、伝えられず。有機的に交換されるメッセージの果てに、やはり失われ削れて、良くても悪くても思い出は悲劇的であり、すべてのものは消え去った。
 ここは今ではない、未来なのだ。僕たちはここに来てしまったのだ。

 かつて真空管を弄繰り回して、天才の名を欲しいままにした科学者は、トランジスタの詰まった製品が並ぶ明るいショーウィンドウを無造作に眺める。彼はすでに96歳になっている。

 鮮やかなカラーフィルムに切り取られた現代の町並み。年老いたテルミン博士が、長い長い時間と生活の果てに再開したかつての恋人と、通りを向こうへ歩いていく。そして二人は立ち止まり、こちらを振り返った。カットオフ。エンドロール。ビーチボーイズ、グッドバイブレーション。


テルミン ディレクターズ・エディション

PI,ASM

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