にぎやかな楽団。

 金曜日の夜、タヒチ80を見にいくことができなかった。
 土曜日の夜、フライドポテトを食べる。
 日曜日の昼、フライドポテトを食べる。
 日曜日の夜、フライドポテトを食べる。

 どうやらこないだAちゃんとポテト談義をしたせいで、ポテトスイッチが入ったみたいだ。僕はジャガイモがとても好きで、昔はスーパーマーケットに行けば必ずジャガイモを買っていた。ある一時期は、毎日カルビーポテトチップスのビッグバックを一袋食べていた。
 長い間、ジャガイモのことなんてすっかり忘れていたけれど、そういえば僕はジャガイモが好きだったのだ。ジャガイモを買いに行こうと思う。フライにするための油も動物性から植物性まで色々と取り揃えて、塩もスパイスも選び抜いて、世界で一番おいしいフライドポテトを作ろうと思う。その気になれば、世界で一番おいしいフライドポテトを作ることはそんなに難しくはない。

 ポテトチップスを毎日食べていたときは、ポテトチップスを一気に5袋くらい買って、部屋にストックしていた。いつでも食べたいときに食べることができるように。だから、ときどきはついつい一日に2袋食べてしまったりすることがあって、そんなときは全身が油まみれになったような錯覚がした。
 僕は基本的に好きな食べ物があると、それを毎日飽きるまで食べて(もちろん経済力が許す範囲でですが)、飽きるとぱったりとそれを食べなくなる、という傾向がある。たぶん、あまり体にいい食べ方じゃないな、とは思うのだけど、でも思い起こせば子供のころからずいぶんと長い間このパターンを続けている。ポテトチップスの他にチョコレートを何種類か、フルーチェ、チーズ、トマト、グレープフルーツ、水羊羹、サラミ、アイスクリーム無数、雑炊、煎餅…。

 それから、お菓子と言えば、僕にとっては明治「カール」は特別な意味を持った食べ物です。
 僕は幼稚園、小学校1年生と名古屋の名東区で育ったのですが、その当時とても仲の良かった友達と「カールは一生食べ続ける。それからゼビウスは一生やり続ける」ということを誓ったからです。ゼビウスというのは僕たちがそのころ遊んでいたテレビゲームのソフトで、残念ながら僕はテレビゲームをしなくなったのでゼビウスは続けていませんが、でも、カールはときどき食べます。誓いがあったからではなくて、自発的に食べるのですが、でも食べるとき必ず誓いのことを思い出す。間の抜けた誓いだけれど、でも、誓いというのは内容よりも誓うという行為と、それを持続させることに意味がある。

 日曜日はCちゃんと宇治まで出かけた。平等院鳳凰堂。ものすごく寒い冬の風に煽られた夕方の宇治はとても閑散としていて寂しい場所だった。桂川のおかげでどうにか観光地の雰囲気を保っているけれど、でも、現代のぺらぺらな建物と鼠色のアスファルトを走るくだらないデザインの車のせいで、平等院は息も切れ切れに耐え残っているという感じがした。
 僕は平等院そのものよりも、ときどき建築の本に出ている、鳳凰堂に併設された博物館の方に興味があったのですが、でも鳳凰堂は一目で驚くような質感を湛えていた。それは単に美しいとか厳かというのではなくて、なんというか”奇妙”だった。古いことは知っているけれど、古いという以上に古っぽいのだ。みすぼらしいと表現しても差し障りはないと思えるくらいに古めかしい。
 僕はこの建物のことをうまく表現することができない。まるで今さっき土の中から掘り起こしたようにも見える。それは、ここにあってはならないもののようにも見えた。もうとっくの昔に朽ち果てていなければならなかった建築物。
 そうか。僕はこの建物を美しいと思い、それから違和感を感じた。その違和感が一体どのような種類の違和感かというと、それは生きている死者に対して抱くのと同じ違和感だと考えられる。つまり、僕には平等院鳳凰堂平等院鳳凰堂のお化けに見えたのだ。

 博物館は期待したほどの建築ではなかった。でも、よくできたモダン建築だった。中に展示されているたくさんの小さな仏像が楽器を持っていたので、「なんだ、これってバンドじゃん」ということに僕たちは気が付き、一旦そのことが分かると仏像観察がとても面白くなった。隣のおじさんが「これは悟りの世界を表している」と奥さんにいい加減な解説をしているのを聞きながら、僕たちはバンドの分析をしていた。「あいつは楽器を持ってないね」「ボーカルなんじゃないの」「そうか。あっちも楽器もってないけれど、あれはポーズからしてダンサーだよね」「きっとそうね。それにしても打楽器が矢鱈と多いわね」

 博物館を出ると、日はほとんど落ちていて、再び見る鳳凰堂はよりみすぼらしく見えた。ピカピカのモダン建築を見た直後だからだと思う。博物館に入るまでは、それなりに美しいと思っていたけれど、今やそれは単なるオンボロな建物にしか見えなくなった。そういうことか。

 大きくて声がかわいくない鳥の飛び交う、暗い桂川を渡す橋を歩き、僕たちは駅へと戻った。その後もちろん、夜ご飯にはフライドポテトを注文した。


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Tahiti 80
Minty Fresh

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