回転するプラスチック・パレード。

 今日、久しぶりに、昔使っていたパソコンに電源を入れてみました。そうすると、中にはいろいろと懐かしいものが入っていて、以下に示すのはそのひとつです。これは僕がもう3、4年前にデザイン関係の授業で書いたレポートです。課題は「エンジニアリングプラスチックを10個挙げて説明を付けなさい」という簡単なものでしたが、怠け者の僕は提出日まで何もしないで、提出日当日に急いで書きました。調べる時間があまりなかったので、なんとかお茶を濁そうとして考え出した苦肉の策が「物語風」です。



   「すれ違う風のようなプラスチック達」


 「植物物語」と名付けられた、一連の石鹸やシャンプーなどの製品は「100%植物原料の洗浄成分を使用」というのがウリの一つである。しかし、原料が植物であれば体に優しいであろうというのは一種の幻想に過ぎない。当たり前のことだが原料は加工を繰り返し製品に至るので、消費者はその間に何が起こっているのかを知る必要がある。何故ならば、物質は時に信じられないくらいにその姿を変化させるからである。
 たとえば、プラスチックはその一例である。
 良く知られているようにプラスチックの原料は石油であるが、その石油は太古の生物の死骸が変化したものだと考えられている。つまり、我々の周囲に溢れているプラスチック製品の原料は太古を生きた生物の死骸である、ということができる。これは少し不気味であるが、同時に時間軸の大きいロマンチックな事実でもある。我々は随分とかわったものに囲まれて生活しているのかもしれない。

 さて、ここで一つの大胆な仮定を設けたい。
 それは随分と非科学的であり、かつ根本的に論理性を欠く仮定である。更にはそうして論理性を無視してまで行う仮定によっていかなる面白い効果が得られるものか、私自身全く確信めいたものがないのであるが、それでもここに一つの試みとして始めたいと思うものである。かかる無謀と冗長を、どうぞお許しあれ。
 その仮定とは、「プラスチック製品が自意識と五感を持っている」と言うものである。いやはや、生き物の死骸から作られたものならば、あるいは精神を宿している可能性もあるのではないか。とのこじつけはあまりにもあまりにもだが、話は始まってしまうのである。


 一枚の薄い紙。表面には広告が印刷されている。その上に、最近発売のピリ辛い味付けのチキンを挟んだハンバーガーと、ミネラル豊富な自然塩がかかっているというフライドポテト、それから紙コップに入ったジンジャーエールが載せられる。私は街のはずれにあるファーストフード店Mバーガーのトレー、所謂お盆である。名はトラオという。なぜトラオなのかというと一度訳の分からない幼稚園児にトラの落書きをされたからである。しかも全面的にである。なにせ、しきりに憎むかのようテーブルの足を蹴りつづけるという訳のわからない子供が描いたので、一体それが本当にトラなのかそれとも何か他の生き物なのか、我々にははっきりと分からなかったのであるが、それでも縞模様の具合がトラであろうということで私はトレー仲間のうちでトラオと呼ばれるようになったのである。

 そのトラの落書きはアルバイトの原田がアルコールの入った液体で拭いて消してくれた。
私はメラミン樹脂で出来ている為アルコールには強いのである。ちなみに私は酸にもアルカリにも強い。それからこれは重要なことであるが、耐水性に優れている上に食用油にも強い。更に表面が固く、まあ陶器に似ているので食卓用品としては最適なのである。耐熱温度も110℃〜120℃と高めなので熱いスープもへいちゃらである。だから、私と同じメラミン樹脂でできたモノ達は食卓用品に多いが、他に化粧板や接着剤、塗料といったあたりをやっているものもあるらしい。

「でも、兎に角山の中で止まらなくて良かったよ。実はヒヤヒヤしながら走ってた。ここまでこれて本当に良かったよ」

「そんなにやばいの、あれ?」

「かなり。エンジンのピストンにはリングが嵌ってるんだけど、多分もう消耗しきってると思う。4サイクルエンジンなのに一瞬でオイルなくなるし、シリンダのなかに漏れてんだよ、きっと。今日は少し無謀だった」

 先ほどから私を使用しているのはオレンジのTシャツを来た男である。不吉なことにTシャツには「Tiger」というロゴと、小学生の版画のようなトラの絵が描いてある。また、落書きなどされないと良いが。そういえば向かい側に座っている、多分この男の友人も、何故か左腕にカラフルな腕時計を3個も着けている。あまりまともそうな2人ではない。少し順番が違っていれば端っこの席に座っておとなしく本を読んでいる女の子に使われたのだが。あのトレーは誰だろうか?カケオか。いいなカケオ。ああTシャツ男よ、せめてタバコをギリギリに近づけるのをやめてくれ。熱硬化性ではあるが、そういうのは無理なのである。頼む。



 水と言えばミネラルウォーター。バカ売れ。そういや昔、オアシス族だかなんだかって水を持ち歩くやつらがいたが、考えてみたら自分の家を出るときに水くらい持つのは当然じゃないか。外には7人の敵だよ。どんな目に遭うか分からない。体に必要なものくらい持ってないと。いつでも飲み物くらい手に入ると言うのは平和ボケだよ。まあ実際に平和な国だけど。それにしても彼女はさっきからほとんど水を飲まない。小柄な体に似合わず、ピリ辛な味付けのチキンを挟んだハンバーガーとロースカツを挟んだハンバーガー、それからフライドポテトとスティック状のケーキを食べたにも関わらず僕に口をつけたのはたったの一度きりだ。ずっと寺山修司の「書を捨てよ街に出よう」を読んでいる。

 そうそう、僕はMバーガーで出されるミネラルウォーターのペットボトル。勿論、PETことポリエチレンテレフタレートでできている。無色透明。耐熱温度は60℃から150℃。耐薬品性、電気特性、耐候性に優れてる。そして強靭、踏んでも壊れない。聞いた話では1.5リットルのコカコーラを入れていた仲間は中身が飲み干された後、水道水を満たされてかわった健康マニアのおっさんに枕として使われているらしい。本人は随分と気持ち悪いらしく、さっさとリサイクルされて他のものになりたがっているってさ。三角のリサイクルマーク、堂々のナンバー1をつけているのに俺は一体いつまでこのおっさんの枕を続けなくてはならないのかと嘆いているのを、こないだ一緒になったジャスミン茶のボトルが聞いたと言ってた。
 ブルブル、ブルブル。
 メールが届いたみたいで、水を飲まない少女は携帯を見る。ちょっと吃驚しているみたいだ。巨大な鞄から素早く手帳を取り出すとなにやらチェックして、そして素早くメールを打ち返すと素早く僕を巨大な鞄に放りこみ素早く店を出た。
 夏の終わり、山の向こうから夕方の空にまだ湧き上がる入道雲はピンクに色着いて、まるで山の向こうにキリマンジェロの雪山が現れたみたいだ。夕日に映える雪山。
 少女は巨大な鞄を真っ赤なホンダスカッシュのハンドルに掛けると、やはり素早く坂道を走り出した。



 えーい、一体ナンなのだこの妙にのんびりとした男は。それから女も女である。二人はドラッグストアでオレを籠に放りこんでから店の中を1時間も物色していた。レジでは男はポケットを、女は小銭入れをのんびりと探り、「ユウスケ、2円ある?2円」「うん、あるよ」などという会話の果てに少しイライラしている様子の店員の前に1587円を2枚の500円玉と4枚の100円玉、そして1枚の50円玉と13枚の10円玉と7枚の1円玉でぶちまけた。イライラはしているものの、そこは手馴れた緑エプロンの店員。てきぱきと小銭を数えると「1587円丁度お預かりしますレシートのお返しになりますありがとうございましたいらっしゃいませ」と無愛想とも言えるスピードで二人を送りだし、次の客を迎えていた。
あっ、見て見て、犬がフリスビーしてる。

 二人は今公園の横を歩いているのだが、何故にこれほど歩みが遅いのか。良く見てみると女は首から南米のオカリナをぶら下げているし、腰の辺りに鳥の羽を一つくっつけている。変わった格好だ。そういえば男は下駄を履いていてカランコロンわざとらしく音を立てている。

「ほんとだね。なかなか上手だねえ」

「私もフリスビーやりたいな」

「今度買おうか」

「イヤッ、今。あるじゃんフリスビー」

 女よ。オレはお前が今一体何を考えているのか、たぶん分かっている。しかし、それはしてくれるな。オレは洗面器だ、空を飛ぶようには作られていない。高密度ポリエチレンで作られていて、比較的高い剛性を持っている、電気絶縁性も良くてパイプをやっている仲間もいるし、耐薬品性にも優れていて灯油缶というきつい仕事についているものもある。熱には弱いが基本的にはタフである。しかしなるべくなら飛びたくはないのだ。
 そおれぇー。
ピュー。フラフラ。
 女よ。
 なんなのだこのコントロールは。
 女よ。
 向こうから走ってくる赤いミニバイクにどうやらぶつかりそうじゃないか?
 ああ、女よ。万事休す。と思いきや、パコーンと軽軽しい音でオレはハンドルに掛けられた巨大な鞄に跳ね返された。コロコロコロコロと道を転がり、川に落ちる。



 シュッ、シュッ、ハッ、ハッ。
 シュッ、シュッ、ハッ、ハッ。

 1週間ぶりのランニングね。時々でも走るだけまだましだけど、この人って基本的に怠惰。こんなので本当にオリンピック目指すつもりあるのかしら。大体、持久力付けたいならタバコくらいやめればいいのに。ワタシとタバコはいつも彼のポケットに入っている。こういうトレーニングの時でさえ。
 そうそう、ワタシは100円ライター。使い捨ての女。AS樹脂で出来ているの。耐熱性と耐衝撃性に優れているからライターにはもってこいね。しかも透明だからガスの残りも見えるし、言うことないでしょ。100円のイメージが強くて、世の中物価は上がるのに私達は値上がりしないの。古風に頑張っているのよ。

 えっ、もう休憩なの?さっき走り始めたところなのに。なんだか胡散臭いといって合気道を止めた後に、たまたまテコンドーがオリンピック種目になることを知って昔から足が高く上がるのが自慢だったあなたはテコンドーを始めたけれど、まさか世の中そんなに甘くはないのよ。こんな1キロも走らないうちに息を上げてしまうようでは。女の子が通るからって髪を直している場合じゃないわ。走りなさい。って、本当に走り出したわね。まさか聞こえたのかしら。チラチラと川の方を見ているけれど一体何があるのかしら?洗面器じゃないの。なるほど、この人洗面器と競争してるわけね。意外と負けん気が強いというか、すこし間が抜けているというか。それにしても何故洗面器が川を流れているのかしら。まあ、兎に角走ってくれれば何でもいいけれど。



「そうねぇ、音楽で一番好きな人はエリス・レジーナね」

 2週間程前、知り合った女の人にそう言われ、それまでMBPどころかボサノバというのが一体どのような音楽なのかも知らなかった彼は急にブラジリアンミュージックに目覚めてしまったらしい。CDを買い、書物を読み、日本のポップスと非常に有名な欧米の音楽しか聴いたことのない彼は、世界にまだまだ沢山の知らない音楽があるのだということに感激した。人生には時々、信じられないくらいにうまいタイミングで次のステップが飛びこんできてくれることがある。南米の音楽に目覚めたばかりの彼が滅多に乗らないタクシーを拾ったところ、運転手の趣味がボサノバギターであった。

「やっぱりなんだかんだいっても自分で弾くのが一番気持ちいいですよ」

 その一言で彼はクラシックギターの購入を決意した。ボクはその第1弦だ。ポリアミド(PA)で作られている。別名ナイロン。こっちのほうが馴染みが深いか。なにせナイロンはエンプラの草分け的存在だ。発明者は確か自殺してしまったという悲しい話もある。ナイロンは化学構造の異なるものが沢山あるが、基本的に耐衝撃性、耐磨耗性、耐油性、ガスバリア性に優れている。乳白色。ただし、吸水性があるので剛性や寸法の変化に注意が必要である。ナイロンと言うとなんだかナイロン袋といったペラペラなイメージが強いが、歯車やファスナーなどの硬いものにも使われている。滑りが良いので油をあまり必要としない。それからレトルト食品の包材にもなっている。

 なにはともあれ、まずはイパネマの娘。という結論に達したらしい。自分の部屋で練習していると隣の住人が壁をドンドンと叩くのでいつもこの川岸で練習。散歩やランニングの人が意外と大勢いるが、音楽に目覚めた彼は恥ずかしがったりしない。パワフルだ。オイリャキコイザマイジリンダ…。カタカナ読みで意味も分からずポルトガル語の歌詞を暗記したらしい。コードチェンジもぎこちないし、バチューダ奏法も出来てるのか出来てないのか分からないが、なんとか様になってきたじゃないか。あれっ。ランニングしていた男が立ち止まったぞ。タバコに火をつけるとこちらをじっと見ている。まさか。はじめてのオーディエンス。



 夕暮れの川辺をのんびりとサイクリング、といきたいものだけど。この子は大きなスチレンボードとあたしを左腕全体での脇の下に挟むように持っているものだから危なくてそうはいかない。随分と下手なボサノバが聞こえている。あたしは黄色いサンプライの板。この後多分この子に切り刻まれて、彼女の建築模型の壁やなんかになるの。恐くはないわ。人間とは精神の構造が違うのよ。切り刻まれてもあたしが増えるだけという感覚。人間ではそうはいかないものね。そういえば人間の精神はどこに宿ってるんだろう。脳?脳のどこ?あれは神経のネットワークになっているから脳のここに精神が宿るとは言えないのよね。左脳を全て摘出した子供がちゃんと生活していたりするし。そうそう、左脳と右脳は脳梁っていう神経の束で繋がれているんだけど、癲癇の手術なんかで脳梁を切断してしまうと奇妙なことが起こる。ガザニガって人が行った実験じゃ、脳梁を切断した人に指示を出してポーズをとってもらう。指示はカードに書いて左視野にだけ、つまり被験者の右脳にだけ見せるのだけど、そうすると被験者は右脳の支配する左半身をつかって、例えば指示がボクサーならボクサーのポーズをとる。そして質問、「あなたの受けた指示はなんですか?」そうすると被験者は答えるわけ、「ボクサーです」これはいたって普通のこと。でもここで被験者の左半身を固定して動けなくすると妙なことになるの。固定して、またボクサーの指示。でも体は動かせない。そして質問「あなたの受けた指示はなんですか?」「指示など出ていません」
 ここで質問に言葉で受け答えしているのは左脳の働きなの。指示は右脳にのみ見せられているので、脳梁がカットされてしまっていては左脳はどのような指示を受け取ったの分からない。だから左脳は何も答えることができないのかというとそうではなくて体の動きを見てから出された指示が一体何だったのかをもっともらしく考えるわけ。だから体が動いてボクサーみたいな格好になっているときはボクサーと答えられるけれど、体が動いてないと指示などされていないと思ってしまう。

 ここで重要なのは、被験者はそのようなことを客観的に理解できないということ。彼は体を固定されているとき、ボクサーの指示が出ているし右脳はそれを見ているのに左脳では本当に何も指示がないのだと思っている。また、体が動くときは左脳自身ボクサーの指示なんて見てはいないのにボクサーの指示を見たと思っている。本人は本当にそう思う。これがどういうことを示唆しているかというと、人間は自分の意思で物事を決めて行動を起こしているように感じているけれど、本当のところでは体が勝手に動いていて、意識はその理由付けをもっともらしく行っているだけなのにそれを自分の意思だと勘違いしているのだ、ということ。

 閑話休題
 あたしはポリプロピレンでできている。比重0.9。ポリエチレンに似ているけれど、もっと艶がある。耐熱性、耐薬品性、耐油性に優れていて半透明。浴用製品とか、自転車の部品とか、荷造り紐なんかもポリプロピレンね。
 かわいそうに、あのオレンジでトラのTシャツ着た人、バイクのエンジンかからないみたいね。あっと。そろそろ到着。6畳一間に製図台。意外とタフね。ウーロン茶飲んで早速カット。どうぞどうぞ。それにしても模型用カッターの刃先30度は機能美だと思う。



 The Clash, London calling を流している。大きなヘッドホンで外界を遮り、大きな板を抱えて階段を上がってきた女の子に挨拶もしない。無視。昨日、動物番組を見て涙していたから、冷たい奴ではないみたいだけど。
 ちなみにワタクシはCD。クラッシュが録音されている。本当はワタクシ程も容量があれば、もっと沢山のアルバムが録音できるのだが情報が圧縮されずに入っているのでこれだけになっている。ワタクシはポリカーボネートでできている。無色透明。酸に強く、アルカリに弱い。対衝撃性、耐熱性に優れている。自動車部品、ほ乳ビン、食器、ドライヤー、建材にも使われる。
 驚いたことに、自転車に乗ると彼はJimmy Jazzを結構大きな声で歌い始めた。なんだ、今日は機嫌がいいのか。



 たぶん、英語の歌を大声で歌いながら男が自転車で通りすぎていった。我が主人は目で彼を追う。恐れているのか?ぼくは我が主人のコンタクトレンズなので我が主人と視界がほとんど同じだと思う。だから主人の考えていることが何となく分かる。
 ぼくはメタクリル樹脂でできている。無色透明で光沢を持つ。有機溶剤に溶ける。まあ透明度を活かして水槽だとか自動車ランプレンズとか照明とか風防ガラスとかに使われている。
 我が主人はまた本屋へ向かっている。立ち読みが長い、時に3時間を記録する。一度、「よくいつもいつも本屋にいれるね」と友人に言われ、「それはそうだよ、本はどんどん新しく入ってくるし、だいたいあれだけの書物を読み尽くすことが出来ると思うかい」と答えていたがそういう問題ではない。
 本屋に着いた。大きな本屋ではあるが、我が主人は髪の毛を真っ赤に染めているので目立つ、きっと店員もよく来る人だな、しかもあまり買わない、とか思っているはず。ちょっと恥ずかしい。



 今日は生徒が少なかったのか?男にしては髪の長い彼が近づいてくる。バイトの終りが早い。なんとまだ9時にもなっていない。彼は旅館で修学旅行の生徒相手のバイトをしているので、たいていバイトが終わるのは10時を過ぎるのだけど今日は早い。
 おれをホルダーから外して被る。おれはヘルメットだ。彼によって変な鳥のステッカーとヨシムラとカタカナで書いたステッカーが貼られている。おれは不飽和ポリエステル樹脂というものでできているのでめっぽう強い。実はガラス繊維で補強されているのだが。でも本当に強くて船なんかも作られている。あと、浴槽とか。電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性もいい。
 本屋に寄るのか。またあの髪が赤い奴いるな。何なんだ、いつもいる。なんとビトゲンシュタインを読んでる。前は手品の本を読んでいたような。本当になんなんだ。



 平日火曜日の夜。一般的にあまり魅力的ではない。週末のような輝きを持ってはいない。しかし今日は恒例のイベントである。古臭い音楽ばかりがかかり大した人数は集まらないが、それでも何やら騒がしくしている。
 店が開いた様子である。一番に入ってきたのは意外なことに女人である。しかも3人もおり、一人は矢鱈滅多と巨大な鞄をさげている。「ごめんね。今日約束すっかり忘れてて」「いいよ、いいよ」必死に鞄をロッカーに押し込んでいる。

 次に入って来たのは男と女であった。
「僕さ、実はギター練習してイパネマ弾けるようになったんだよね」「へえ、そうなの」男は女に気があるような仕草であり、女もまんざらではなさそうである。

 そろそろ名乗ろう。我輩はレコードである。フロアが一通り盛り上がったあとで、我輩は随分と年配のDJによってターンテーブルに乗せられる。
 我輩は塩化ビニルでできている。塩化ビニルというのは所謂塩ビであり、なかなか有名である。比重は1.4である。燃え難い。みず、空気を通さないのでパイプによく使われる。軟質のものと硬質のものがあり、やわらかなものはホースなどにもなっている。子供のおもちゃにもよく使われていたが、環境ホルモンが騒がれてからはどうであろう。

 だんだんと人が集まってきたようである。無意味に足を高く振り上げているものがあるが一体どのようなつもりであろう。オレンジのTシャツをきた男に足が当りそうである。
 カウンターでは何かで切ったのか指にバンソウコウをまいた少女と首にヘッドホンをつけた少年が乾杯をしている。その隣ではなんと下駄履きの男と腰に羽根をつけた女が話しをしている。ピョンピョンと飛び跳ねてる女の2人連れに、髪の赤い男と長い男の怪しい2人が話しかけた。

 制作仮定をゴダールがドキュメンタリに仕立て上げた、悪魔に同情する意味の歌が流れている。DJが代り、彼はたぶんビートルズをものすごい速さでかけるだろう。そしてその後、多分我輩の出番である。愛こそすべて。
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