キャデラックを磨け。

 大学の図書館で本を9冊借りて、そのあと府立図書館で5冊借りた。
 図書館の中をうろうろしていると、英語の上達には辞書も引かないで単にたくさんの英語の本を読めばいい、というような主張の本があって、僕はシュリーマンのことを思い出した。

 シュリーマンは有名なトロイの遺跡を発掘した人だけど、彼は語学の天才でもあった。彼の語学学習方法はその言語で書かれた本を辞書も引かないで、文法の勉強もしないでひたすらにたくさん読む、というもので、僕は高校生のときにシュリーマンの本を読んでいてその件が出てきたときひどく驚いた。

 怠け者の僕はさっそく次の日、学校の英語の先生のところに行って、その話をした。辞書もひかなくていいなんて、とても楽な勉強方法だ。

「今日からテストとか文法の勉強とかやめます。シュリーマンみたいに英語を読みまくります。それしかしません」

「何を馬鹿なこと言ってるんだ、お前は」

 僕は受験生で、入学試験に備えた英語の勉強をする必要があった。それに、やっぱりシュリーマンの方法は虫が好すぎるようにも思えたし、昔は辞書も手に入り難かったからそれしか方法がなかったのかもしれないとも考えた。
 そして、僕は普通に英語を勉強した。

 でも、昨日図書館でその本を見つけて、一度シュリーマンの方法を試してみようと思った。少なくとも、既に最低ラインの文法も単語もクリアはしているし、今後はシュリーマンの方法で勉強するのがとても良いように思えて、僕はワクワクした。もう、今後僕は論文を読むときなんかを別にして、語学学習のためには辞書をひかなくていいし、好きな小説でも読めばいいだけなのだ。

 だから、図書館の帰りにgreen e books に寄って、洋書を三冊買った。すると、今日はエトワでパーティーをするから良かったらおいで、と誘われたので、僕は数時間の後にエトワに出掛けた。

 green e booksは洋書屋さんだから、パーティには外国人もたくさん来ていた。意外にも同じ大学で建築を勉強している人が数人いて、それからこの日初めて会った、green e booksでアルバイトをしているYちゃんは博覧強記の読書家で、社会学や文学の話でとても盛り上がった。この日ライブペインティングをしていたNさんは、Yちゃんの友達で、話をしていると僕の友達のSちゃんと友達で、別の方面の友達のBやUとも昔同じところでアルバイトをしていたことが分かった。世間というのは本当に狭い。

 この日僕はレポートを抱えていて、それに結構疲れていたから、本当はそんなにパーティーに行きたい訳でもなかった。でも、こういう偶然の流れには乗った方が良いような気がして出掛けた。府立図書館を出た時点で、既に疲れてお腹も空いていて、でも「今行った方がいい」と思い、僕はわざわざ少し道を引き返してまで green e books に寄ったのだ。そして、その夜にあるパーティーを知った。ならばもうパーティーには行くしかない。とても楽しいパーティーだった。