ハロウィン。

「やっぱり仮装しないでハロウィンに行くなんて嫌だ」
と僕は言った。10月31日にメトロで行われるハロウィンパーティーに行くことには決めていたけれど、仮装の用意を全くしないうちに10月31日の夜になってしまい。おまけに僕は前日徹夜だった。「もう今日は仮装していくの無理だよ」「私も普通の格好で行く」という会話が電話ではあったように記憶するのだけど、寺町で落ち合うとUは魔女になっていた。
 そんなわけで僕は百万遍で、魔女とも、帽子がなければ単におしゃれな黒い服装だともとれるUと御飯を食べながら愚痴をこぼしていた。仮装しない仮装パーティーなんて。もちろん、僕の怠慢のせいだ。

 でも、時間は後戻りしない。僕はこのまま状況に流されてノーマルな格好でパーティーに出掛けるか、それとも残された時間でなんとか問題を解決するしかない。

「今から何か作ろっか」

「まだ少し時間あるし」

 僕たちは満たされたお腹を抱えて、寒空の中100円均一の店によって、そこに売られているもので作れそうな適当な仮装を考えて、材料を買い込んで部屋に戻った。一時間くらいかけて、僕はTシャツに綿を貼り付けて、モケモケの服を作った。それからウサギの耳をつけて、Uが作ってくれた尻尾を付けた。とても変で安普請だけど、でもウサギができた。Uも魔女メイクを施して、魔女はより強くて恐い魔女になった。
 そのまま自転車に乗って夜の街へ出る。アパートの出口で、別の住人が吃驚して僕らを見たのを初めとして、道行く人々の視線が面白くて僕たちは大笑いする。パーティーへ行くところなのだ。

 会場につくと人々の凝った仮装を見て、やっぱり頑張って用意すればよかったな、と少し後悔した。でも、仮装なしで来るよりかはよかった。Mくん、Tくん、Mさんは医者の格好で、Sちゃんはネコみたいな格好で、Yちゃんはデビルな格好で、MちゃんやSはなんか80年代テクノキッズみたいな格好で、yちゃんとその友達は僕は知らないけれどアクメちゃんというハクション大魔王に出てくるキャラクターの格好だった。メトロサイドではmちゃんはもののけ姫の格好で、Rさんは怪しい整体師、Nさんは金持ちヤクザみたいな格好、Tさんはニワトリだった。

 本当はみんな好き放題な格好をするのが好きなんだと思う。
 お祭りの時だけではなく、誰もが好きな格好をして、それでも「何あの服、馬鹿じゃないの」という批判のでない世界を作りたい。

 どこかで見たことがある筈だと思って白人の女の子に話しかけると、彼女はクロアチア人で愛知万博クロアチア館で働いていたと言った。僕はそこへは行ったし、スクリーンの部屋で会ったようだった。ちょっとした偶然。

 月曜日の夜だというのに、メトロの中はおかしな格好をした人間で溢れかえっていた。僕のモコモコした服はあまり人にぶつかると綿が取れるので、最初は随分気にしていて踊るどころじゃなかったけれど、だんだん気にならなくなった。
 僕は人間が蠢くフロアを見て、人類が有史以前から踊り続けてきたことを思う。音楽というものがどうして人間に必要なのかをとても良く理解することができる。必要なのは、食べ物と飲み物と、恋人と友達と家族と、それから音楽だけなのだ、他のものは人類に全然必要じゃない。どういう夜が素敵な夜なのか、そこに共通する要素を見抜かなくてはならない。