キャンピングカー。

 昨日、Aちゃんとバグダッドカフェをやっと見た。予想通り黄色い映画だった。そしてやっぱり悲しいような幸せなような映画だった。出ていった男達は出ていったままだった。calling youが何度も流れる。人生には水が必要だと強く思う。乱暴なのは良くないと思う。優しくないのは良くないと思う。どならなくても声は聞こえている。ブーメランを投げるときは風を読まなくてはならない。さもなくば、投げられたブーメランは軌道を誤りタンクにぶつかるだろう。それは退屈の始まりを告げる音だ。誰が部屋を掃除したのか考えて欲しい。

 Sちゃんと電話で話していると、パンをお昼に売ってみたいという話が出た。みんなで何かこう、少しだけ世界が変ることをしたい。それもなるべく早く。京都という海の見えない街に、もうすぐ冬だってやって来る。雪はあまり降らないくせに、寒くて寒くてマフラーの中に鼻まで埋めて、ポケットに手を突っ込んで歩かなくてはならない。まだ遠くに目を細めれば夏の背中が見えている今のうちに、僕は書類を書くだろう。

 とても久し振りにボブ・ディランを聞くと、彼はしゃがれた声でやっぱり歌っていた。

 目を大きく開けなさい
 チャンスは二度はこないのだから
 そしてせっかちに決め付けないことだ
 ルーレットはまだ回っているのだし
 分かる筈もないだろう
 誰のところで止まるのか
 いまの敗者は
 次の勝者だ
 とにかく時代は変りつつあるのだから

 僕たちは、本当はもっとたくさんのことをすることができる。

 東京のAからカリフォルニア経由で郵便が届いた。それは僕の郵便受けに、出版社からの連絡と大学院の授業料振込用紙と一緒になってしっかりと突き刺さっていた。中には手紙と、Aの作ったCDと、他にも彼女の推薦するCDと僕が昔欲しがっていたCDが入っていた。それから僕がチェックし損なった、知っている人の載った雑誌のコピーも同封されていた。
 とても素敵な手紙で、僕はほとんど泣きそうになった。
 郵便は数日前に出されたもので、その数日の間にAは夢を半分叶えてしまうという偉業を成し遂げていて、僕はアチーブメント以前に書かれた手紙を読んで時間のことを想う。そこには「頑張る」と書いてあった。彼女は本当に頑張って、僕が「頑張る」を読んだ時には既に目標は達成されていた。

 世界の中で、僕たちは歩くことも走ることもできるし、もちろんジャンプだってできるということを教えてくれた。

バグダッド・カフェ 完全版

紀伊國屋書店

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