シュークリーム。

 バイトに帰りに異常なところで寝てる老人を見付けて、死体かと思ったら違ったのだけど、でも明らかに異常事態なので警察を呼んだ。アルコールの匂いもしないし、お酒を飲んで寝ている、という訳ではなかった。救急車と一瞬迷ったのだけど、僕が見る限りでは健康状態に特別な異常は、少なくとも急を要するような点は見つからなかったので110番にした。

 なんと、警察が来たのは僕が電話をかけてから30分以上経ってからだった。その間にパトカーが1台通ったので、これは幸いと僕はパトカーに向かって大きく手を振ったり、「すみません」と叫んだりしたのだけど、警官はこっちをちらっと見ただけであっさりと通り過ぎた。何の為にパトロールしてるんだろうか、と思う。

 僕はとても疲れていたし、現場に警官を誘導して、その後は彼らに任せた。

 それから、コンビニエンスストアで御飯を買おうとするとお金を10000円くらい落としていることに気が付いた。他にもいくらか財布の中のものがなくなっていた。僕は絶望的な気分になった。このところ本当に詰まらない生活に嫌気がさしていて、ただでさえいい気分では生きていないのに、遂にお金まで落としてしまった。さっきパトカーがスルーしたとき、呼んだ筈の警察も来なくて、僕は自分の声なんて実は誰にも聞こえていないのではないかという錯覚に陥りそうになった。その30分の間に20人くらいの歩行者や自転車に乗った人が通過したのに、誰も老人をちらっと見るだけで立ち止まらなかった。僕はその30分間、全くの孤独だった。その良く分からない老人の呼吸が乱れたりしないか、それだけに耳を欹てていた。

 僕は昨日もATMに忘れてあったカードをきちんと銀行に預けた。
 今日だって老人を見捨てなかった。
 なのに、僕はお金を落とした。

 「全然いいことないぜ、どうなってんの?」ってヘルマンHの歌を思い出す。