アメリカン・ハイウェイ。

 一昨日、バイトから帰って、夜にとてもお腹が空いて、今山くんとご飯を食べに行った。僕は自転車を友達に貸していたので、二人で松ヶ崎から百万遍まで歩いて「畑カフェ」を目指した。
 いい加減、一乗寺には飽き飽きだったし、それに近辺の定食屋さんにはヘルシーな感じの食べ物を出してくれるところがほとんどなかったからだ。
 残念なことに畑カフェは閉っていて、代わりに大輔さんの店で豚肉ショウガ炒め定食を食べた。

「なんていうか、僕は実際にものを作ることに理論的な研究よりもずっと向いているような気がするんだけど、でも、ものを作る仕事で成功しても、死ぬ直前に後悔しそうな気がするんだよ。もっと、宇宙の仕組みみたいなものを掘り下げてみたかったって」

 僕はそう言った。
 僕も今山くんも理論系の研究室なので、実際に目の前で物を作ったり、実験したりということはしない。
 でも、二人とも何かを作るときは異常に高いテンションになるし、それこそ寝食を忘れて没頭することができると思う。
 だから、本当はそういうことを仕事にしたほうが、きっとずっと幸せなんじゃないかと思うわけで、でも僕は小さいときに読んだ本や何かのせいで、宇宙の仕組みを知りたい、という漠然とした欲求を捨てることができないし、そのくせ数学やなんかは苦手だし好きでもないということで、欲しいものと好みの不一致をどうすることもできない。

 これには長らく悩まされている。

 大輔さんとは基本的にはクラブ友達なので、よく一緒になるイベントについていくらか話す。

 ご飯を食べ終え、また松ヶ崎まで二人で歩いて、それから僕は研究室に行った。

 それから、そうだ、今日自転車を返してもらえばいいや、と思い、丸太町に住んでいる友達のところまで歩いて自転車を取りに行き、自分の自転車に乗って、一緒に貸していた松田君の自転車を右手で押して帰ってきた。

 昨日は、バイトから帰って、そしてアコちゃんとベリーベリーカフェに行った。

「昔、少年アシベって漫画あったの知ってる?」

「知ってるよ。実は全部持ってた」

「じゃあ、アシベの誕生日プレゼントって何か知ってる?」

「ゼリーのプール」

「そう! それっ。私、それずっと夢なのよね」

「まあ、できないことはないよね。もう大人だし」

「っていうか、私ってゲルの研究してるでしょ。今、研究室にあるのよ、要らないゲル化剤が、しかも大量に」

 もうやるっきゃない。

 それから、流れで僕は昨日と同じ話をした。

「ものを作るほうが向いてると思うけれど、でも死ぬ寸前に後悔しそうな気がするんだよね」

 だけど、昨日と今日は違うし、話す相手も違う。
 僕はカリフォルニアビールを一口飲んでから、昨日は思いもしなかった言葉を付け加えた。

「考えてみたら、死ぬ寸前にちょっと後悔するくらいなんでもないね」

「そうよ、それまで何十年も楽しいわけだし。何十年も楽しんで最後に一瞬後悔するか、何十年も苦しんで最後に満足感を得るかってことでしょ」

 ただ、僕は今自分のいる世界で、はっきり言ってまだ自分の力の一割も出してはいないような気がするし、もう少し先を見てみようと思う。

 いろいろあって、僕はアコちゃんの自転車を大学まで運ぶことになった。
 2日連続で自転車を運ぶというのは、なんとなく教訓めいている。

 そして、この夜は異常に警官が張っていて、案の上、僕は止められた。
 ほんとうに警察って迷惑だな。
 普段なら、「これは任意だし、僕には止まる義務がない」って振り切るけれど、この日は自転車で自転車を運んでいたし、逆らうと変な罪になりそうだったので大人しく防犯登録を確認させてあげる。

 ロサンゼルスに行きたい。