南国からやってきたコック。

 金曜日の夜で、通りには人が溢れていた。

 朝に帰国して、厳しいことにそのままアルバイトに行っていたBと三条で落ち合い、結局はエトワで晩御飯を食べた。
 スイートバーガーとタコライスとヤシの芽サラダを注文し、それから僕はメキシコのビールを飲み、彼女はカンボジアの煙草を吹かした。

 「梅雨は終わった?」

 「いや、まだ始まってもいないよ、雨なんて全然降っちゃいない」

 メトロではドラッグクイーンのイベントが行われていて、何度か彼女達の姿が見える。店にはなんとかさんの作った頭に被る為のシルバーの箱が置いてあって、一組のカップルが嬉しそうに被ったりしていた。
 僕たちの隣の席では、お金を貸すのが仕事であるらしい二人の男と、お金を借りたある男の恋人らしき女の人がシリアスな話をコミカルにしていた。

 「ちょっと彼氏、彼氏」

 ブラックスーツとピカピカ時計の金貸し屋さんらしき男の人が、Bを指して僕に話しかける。

 「彼女やろ? あかんでこんなお腹だした服着て、注意したらな、今見て吃驚したわ」

 「違いますよ、残念ながら。恋人じゃなくてただの友達です。それから、確かにお腹は見えているけれどとてもセンスのいい服だと僕は思います」

 彼は、ときどき僕たちに話し掛けて来た。

 「東京の人? 東京みたいなしゃべりかたしてんの聞こえたで」

 「違いますよ、残念ながら。僕はほとんどずっと京都に住んでいますし、東京には住んだことがないです。ただ、話し方は変だとよく言われます。周囲の色々な人の影響だと思います。あと小さいときには名古屋で標準語の生活をしていました」

 時計は緩やかに回転する。僕たちのおしゃべりは続き、彼らの商談も続いた。夜はまだ長く、店内に落ちる照明は変化せず、音楽だけが変化した。そして、彼はボールペンでなにやら熱心に書き物を始め、しばらくするとその紙を僕に見せた。

 そこには僕のスケッチがとられていた。

 「似てるやろ?」

 「似てる? 上手ですね」(実際にそれはなかなかのものだった)

 「あ、上手、サイン入れて下さいよ」

 とBが言うと、彼は嫌だといい、代わりに僕の名前を聞いて僕の名前を入れた

 「良太くんへ、と。はい」

 「どうも、ありがとうございます」

 「これ、私もらっていい?」

 「いいと思うよ。あげる」

 翌日に備えて、早めに帰る。
 自転車に乗りながらハンモックの話をする。
 鴨川で花火が上がり、彼女は階段を上がり、それからおやすみを言って一日が終わる。