コルビジュエ。

 大学に安藤忠雄さんがやってきて、講演会があった。
 僕は安藤さんの講演を昔にも一度聴きに行ったことがあって、そのあと彼がテレビで話していたことがこのときの講演と大体同じだったことと、同じ話が多いという先輩の言を踏んで今日は講演を聴きに行くのはやめておこうと思っていた。他にも今週はやるべきことが山のようにあるので時間の余裕がなかった。

 だけど、状況というのは予測不可能な形で変化する。
 開場時間よりも30分前くらいにNさんから電話が掛かってきて、「今からFさんと安藤忠雄の講演会行きたいんだけど、どんな様子?」と聞かれたので、僕はセンターホールまで様子を伺いに行った。予想通りで人出はかなりのものだった。いかにもNさんがこっちに着く前に満席になりそうだったので、電話で「無駄足になるリスクは極めて高いけれど、駄目元ででもおいでよ」と言いながら会場を歩いていたら、Iさんが友達とずらっと席に並んでいて、「座る?」と詰めて席を空けてくれたので、僕はNさんとFさんの席をとっておいてあげることにした。

 Fさんというのは建築を学びに日本にやって来たフランス人の女の子で、今日は日本語学校を早退して安藤忠雄の講演を聞きに行くことにしていたらしいのだけど、結局NさんとFさんの連絡がうまくつかなくて二人は来なかった。

 変わりに僕はその席に座り続けて講演を聴いてみることに決め(これも何かの縁だと思う)、隣にはI君がやってきたので彼が座ることになった。

 講演は面白かった。
 話の骨子は前回と同じだったけれど、新しい内容も加わり、ジョークで会場は何度も沸いた。
 彼の持つエネルギーをいうものを感じられずにはいられなかった。

 とても不思議なことに、マイクが3回も4回も駄目になって、途中で交換していた。
 一度や二度なら会場の不備で、電池が古かったのではないか、と思うけれど、ああ何度もマイクが駄目になると安藤さんから謎のエネルギーが出ていてそれがマイクを駄目にするんじゃないかと思えて仕方ない。
 それくらいエネルギーを感じる人だった。

 話の中で特別に印象深かったのは、相手にされなくてもとにかく自分勝手にプランを立てて提案していくということで、事務所設立当時に大阪市に駅前開発のプラン(屋上緑化)を持ちかけたことと、六甲の集合住宅を作ったとき、隣に新日鉄のマンションが建っているにも関わらず、それを壊してそこに自分の設計したものを建てるというプランを作って新日鉄に持っていったということを彼は話した。

 両方とも全然相手にされなかったということだが、三十何年の時が経ち、今大阪市屋上緑化に力を入れていて、それから新日鉄のマンションは震災で壊れて、結局安藤さんの設計したものが建つことになった(手放しで喜べることではないけれど)。

 種を蒔くということ。
 もちろん、発芽率100パーセントというわけにはいかない。
 彼の著書「連戦連敗」というのは、そういうことを表すタイトルなのかもしれないと思った。

 今回の講演では、どちらかというと話の内容よりも彼の話すスタイルが気になった。
 それは今の僕のアルバイトが高いプレゼンテーション能力を要求するものだからで、僕はそうったことがあまり得意ではないので、良いものは盗もうと、近頃人の話し方が気になって仕方ない。

 そういえば、今日アルバイトに行って、実は今週の土曜日はバイトが休みだということに気が付いた。なんだ、休みだったんだ、と思っていると帰り道にT君から電話が掛かってきて「土曜日暇だったらファッションカンタータ行くけど、来る?」と言うので、毎年気になっていたので行くことにした。
 これも何かの縁だと思う。最近、とても縁というものが気になる。