リフレクション。

 ポケットからイヤホンを引っ張り出すと、クリップがくっついていた。そのクリップを一体いつポケットに入れたのか記憶にはないのだけれど、でもクリップは確かにイヤホンにくっついていて、それも文字通りぴったりとくっついていた。

 どうしてイヤホンにクリップがくっついていたのかというと、それはイヤホンの中には磁石が入っているからで、イヤホンに限らず、一般にスピーカーの中には磁石が入っている。
 スピーカーに磁石が入っていることは良く知っていたけれど、イヤホンにこんなに強力な磁石が入っているとは思いもよらなかった(比較的強いという意味合いです)。

 僕はここのところ毎日イヤホンを使用しているけれど、イヤホンを耳に入れるという行為は、磁石を耳に突っ込むという行為でもあるわけです。
 そう考えると、耳のように至ってデリケートな器官に磁気をかけるという行為に一抹の不安を感じてしまう。

 耳は、音をフーリエ解析し、体のバランスと運動量をも測定している。
 その機構には磁気からの影響を受けそうなものがなかったとは思うけれど、でも何が災いするのか分からないようにこの世界というものはできている。人間には見えないものがたくさんある。

 たとえばモンシロチョウのオスとメスについて。
 たとえばコウモリの鳴き声について。

 僕たちは紫外線が見えないし、超音波も聞こえない。
 それどころか、たぶん本当は何も見えないし何も聞こえてなんかいやしないのだ。