ヤングアメリカン。

 外では雨が降り、子供の猫が鳴いていて、そして軽い喪失感の中に自分がいるのなら、そんな夜、人は何をすればいいのだろうか。ある人は掃除だと言い、またある人はお酒を飲んで寝てしまうと言った。残念ながら僕の部屋はピカピカで、それからお酒なら十分に飲んできたところだった。でも、お酒を飲んでもあまり酔っ払うという質ではないし眠くもなかった。それを幸福だという人もいれば、不幸だという人もいる。要するにどちらでもないのだ。

 存在するとは別の仕方で。
 僕たちは丁寧に思考を積み上げることで、思ったよりも遠くに行くことができる。
 時間を使って、丁寧に積み上げること。いかにも押さえ難いコードをゆっくりと何度も練習すること。知らない単語をいちいち調べること。毎日ランニングをし、きちんと掃除をし、ときどきは料理を作る。
 なんといっても、結局世界というのはゆっくり進む。

 それでまあ、夜は明けて日曜日の朝(雨だけど)、ラジオのスイッチを入れれば小沢健二が歌っていた。ナイトクラブの歌。中学生の時には本当のことはよく分からなかった。大人にしか見えないものを僕は美しいと思う。それから「君に見合う僕でありたい」とかなんとか。
 押し入れの奥に放り込んであった黄色いラジオを研究室に持っていこうと思う。雨が降っていても、傘をさせばなんてことはない。