ビューティフル・サンデー・モーニング。

 タイマーを8時にセットしたままのラジオがミスター・チルドレンを鳴らして、僕は目を覚ました。部屋の中にはサンサンと太陽が降り注いでいた。まだ早い、希望に満ちた平和な太陽からはドーナツの匂いすらしていた。窓を開け放つまでもない。青空でシャイニングでグリーン・ポップな公園で今日はレモネードとソフトクリームが飛ぶように売れるに違いない。

 約束は京都駅に11時だけど、こんな朝にこれ以上、一体誰が眠り続けるというのだろう。昨日の夜M君の部屋で飲み込んだワインとビールは完全に分解されていて、アルデヒドも出ていって、二日酔いの欠片すらない。かつて噂の美人3姉妹と偉大なルーレットマニアが感嘆の声を上げたように、僕は見た目よりも丈夫なアルデヒド脱水素酵素を持っている。春の陽気に誘われて、鳥たちと人間たちの飛び回り跳ね回るこの季節が「今日はとびきりにすることにきめたんだよ」と言うのであれば、ベッドから飛び出す事を躊躇う理由なんて一体どこにあるというのだろう。

 土曜日の朝。
 日曜日の朝ではないけれど、日曜日の朝なのだと書き換えても差し支えないような土曜日の朝。歯ブラシをくわえてオムレツを焼いたって最新のボサノバをかけたってTシャツを着たって様になる土曜日の朝。

 古着屋とサラ着屋の間の細くて暗い、汚れた路地で小説を読む紫色のマニュキュアを塗った彼女が吐き出す紫色の煙と紫色のブックカバーでその路地はムラサキ・サンセットになっていた。逢う魔が時。僕の差し出したコカコーラと引き換えに提示される言葉。「城よ。カフカ

 昼と夜との間に存在し、夜と朝の間には存在しないもののために、今日も彼は歌う。
 夜と朝との間に存在し、昼と夜の間には存在しないもののために、僕はそれをリミックスした。
 鳥たちは我先にと囀り、キャサリンの部屋ではシャワーからお湯が吹き出した。

 そういえば最近僕はタブブラウザというものを使っています。先日M君が教えてくれたもので、僕はあまりパソコンの使い勝手や何かに興味はないのですが、とても感動しました。
 タブブラウザというのは、ウェブブラウザの一種で、たくさんのサイトを開いたときに一つのウィンドウでそれを管理できるようにデザインされたもので、僕が一体何に感動したのかというと、それは僕の教えてもらったタブブラウザにはマウスのジェスチャーを読む機能がついていて、そのジェスチャーで指示を出すという手法に感動したのです。

 たとえば画面を一つ前に戻るとき、ブラウザの「戻る」をクリックする代わりにマウスを右クリックしながら左に少し動かすと戻ります。ページを閉じたければ「X」を押す代わりに右クリックをしながら軽く「↓→」と動かせばページが閉じます。他にもユーザーは好きなようにマウス・ジェスチャーを設定する事ができます。

 せっかくマウスという入力機器があるのに、こういうふうにジェスチャーを使ってコンピュータに指示を出せるシステムを、僕は恥かしながら考えつきませんでした。しかも思い起こせば僕は昔、超音波を利用した3次元マウスのアイデアと、その可能性としてのジェスチャーに似たアイデアを見た事があるし、マウスってなんだか不便だな、と思ってすこし頭を捻ったことだってあるのにです。

 マウスジェスチャーが使えるという環境を体験して、僕は今まで自分がどれだけ従来のインターフェイスに束縛されていたのか思い知ったわけです。自分が置かれている環境を超えて思考することは本当に難しいと思いました。普段、僕たちが使っている日本語や日本や、21世紀の初頭という環境に、本当は僕たちがどれだけ束縛されているのかと考えるとすこしだけ窮屈な気分がした。でも、もちろん、この環境を通じてしか感受することのできない素敵なことだって世界には溢れている。