桜色の風と犬とボート。

 金曜日は嵐山でバイト先の人達と花見をした。
 今年二回目の花見で、前回はまだ花がほとんど咲いてはいなかったし、来週にも花見をするけれど、たぶんその頃には花は大方散っているだろうから、この花見が一番盛りの花を愛でる機会になることと思う。
 実際、桜は満開だった。
 世の中にはこんなにたくさん桜の木が植えてあったのだと改めて気が付くくらい沢山の花が咲いていた。

 染井吉野がすべてひとつの株から分けたもので、日本中の染井吉野はいわばすべてがクローンなのだ、というような話を聞くけれど、僕にはどうもぴんとこない。
 生物と言うのは勝手に多様性を獲得するのではないかと思ってしまう。

 今日は大阪まで『写真新世紀』をユミコさんと見に行った。
 その展覧会は帝国ホテルの近くの小さなギャラリーであったのだけど、送られてきたフライヤーに「JR大阪から帝国ホテル無料送迎バスあり」というようなことが書いてあって、ギャラリー自体は帝国ホテルに関係ないような気がするのだけど、交通案内に無料バスに乗ってきたらいいんじゃない、帝国ホテルのバス、と書いているところがなんとも不思議だった。

 それで僕らは大阪駅から帝国ホテル行きのバスに乗ることにしたのだけど、一体そのバスがどこから発車するのか全然分からなかったので交番で聞くと、面白いおじさんお巡りさんと、真面目な若いめのお巡りさんが親切に教えてくれた。

 バスは意外に小さくてマイクロバスだった。
 僕は普段から帝国ホテルに泊まったりできないので、バスだけでもなんとなくうきうき感を味わえたらいいな、と思っていたので少しがっかりした。となりから出ているリーガロイヤルホテルのバスは立派な大きいバスだった。
 でも、バスの中でユミコさんがすごくおいしいチョコクッキーをくれたので、それを齧りながら大阪の地上を走り抜けてなかなか楽しかった。

 帝国ホテルにつくと、そのままロビーに入って、こういうとこっていいな、普通に泊まりたい。気楽に、なんて言いながら通り抜けて、一気にジャンクなスタイルでマクドナルドのハンバーガーを食べて、それから、外に出て、ちょっとうろうろしようなんて言いながらうろうろしようと思ったらそこに目的のギャラリーがあったのでうろうろするまでもなく入った。

 それは見るからに小さなギャラリーで、写真のほうも少ししかおいてなかったので、展覧会自体はなんとなく不満足で物足りなくて、僕らは座って過去の作品集をしばらく眺めていた。
 もちろん、アンケートには「もの足りない」と書いた。

 年々この企画は規模が小さくなっているような気がするので、なんとなく寂しい気がした。

 あっさり展覧会が終わってしまったので、うろうろを再開して、桜の中をとおり抜けて、それかた変なアパートを発見したので(外装が銅色にビカビカ光っている)写真をとってから、中に入ってみた。中は普通のアパートだった。

 それから花見の人々で満員になった電車に乗って、南船場でお茶してハンズによって、眠い眠いといいながら帰った。
 帰りの電車のなかでもまたクッキーを食べた。

 地下鉄をおりると緩やかな春の雨が降っていて、僕はコンビニエンスストアですばやくお弁当を買い、すこし早足に歩いた。