サバービアでリゾートでデンジャー。

 子供用のオムツをテレビで宣伝していて、コピーは「男の子は乗り物が大好き。女の子はお花が大好き」というものすごいものだった。

 もちろん、男の子が青を好み、女の子が赤を好む、というのがいつもいつも成立するわけではないのと同様に、乗り物なんてどうだっていい男の子も、お花なんてどうだっていい女の子も、この世界には確実に存在している。頼もしいことに。

 僕はこのコピーからものすごくダイレクトに「フロイト的なもの」を感じて少し考えないではいられなかった。乗り物は男性の象徴で、お花なんていうのはもっと明快に女性だと言える。
 かつて、僕には名前の分からない花がたくさん咲いた川岸を散歩していたとき、その美しい人は「でも、花って植物の性器みたいなものよね。ずっと見てると気持ち悪くなってくる」と淑やかに言った。

 それは、イエスでありノーであった。
 植物は動物ではないから。

 でも、それはノーでもありイエスでもあった。
 植物だって僕らと同じ生き物だから。

 そして僕は大袈裟なマスクの紳士が自転車に乗って通り過ぎるのを見た。
 彼は杉の花粉から身を守る必要があった。
 アメリカ杉の花粉。
 ノーでもありイエスでもあり、つまりそれはアメリカの精液のシンボルだと見なせないわけでもない。世界はあらゆるレベルでアメリカに侵入される。

 でも、実は僕は基本的にはアメリカという国が大好きです。

 友達が買って、早速飽きてしまったらしいi-podシャッフルをしばらく借りていたのですが、ここしばらく音楽を持ち歩くということをしていなかった僕にはとても新鮮な体験でした。それで今日買い取りました(まだお金払ってないけれど)。
 電車に乗っていて、窓の外をスムーズに流れていく夕暮れにTahiti80なんかが被さると、世界はロードムービーに変わり、すこしだけ優しい気持ちになれる。

 昔は部屋の中やどこかのお店や、いわゆるステレオ装置のあるところでしか音楽を聞くことができませんでした。でもソニーウォークマンを作り、世界はヘッドホンから流れる極々個人的な音楽に満たされることとなった。
 これはとても素敵なことだと僕はとても大切な人に教わった。
 「東京駅に私の乗った新幹線が近付いていくとき、そのときちょうどヘッドホンからナイアガラトライアングルが流れてきて光景と音楽が完璧過ぎて涙が止まらなくなったの。こういうのって部屋でレコードを聞いてるだけの時代には絶対に起こらなかったことよ」

 僕は今や海でも川でも草原でも、そして時速300キロの新幹線の中ででも音楽を聞くし、そのうちには時速580キロのリニアモーターカーの中ででも好きな音楽を聞くようになるのだろう。