連載小説「グッド・バイ(完結編)」15

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (四) 「お見舞いに持っていった饅頭を、あなたが食べて、意地汚いケチね、いつも。」 帰りに入った蕎麦屋で、キヌ子が鴉声を出し…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」14

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (三) ケイ子の兄は、予想以上の大男であった。これでは、いざという場合に、キヌ子の怪力も通用しないのではないか。田島は不安…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」13

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (二) こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応せず、思…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」12

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (一) 田島は、しかし、永井キヌ子に投じた資本が、惜しくてならぬ。こんな、割の合わぬ商売をした事が無い。何とかして、彼女を…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」11

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (四) 「ピアノが聞えるね。」 彼は、いよいよキザになる。眼を細めて、遠くのラジオに耳を傾ける。 「あなたにも音楽がわかるの? 音痴みたい…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」10

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (三) 田島は、ウイスキイを大きいコップで、ぐい、ぐい、と二挙動で飲みほす。きょうこそは、何とかしてキヌ子におごらせてやろうという下心…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」9

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (二) 「あそびに来たのだけどね、」と田島は、むしろ恐怖におそわれ、キヌ子同様の鴉声になり、「でも、また出直して来てもいいんだよ。」 「…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」8

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (一) しかし、田島だって、もともとただものでは無いのである。闇商売の手伝いをして、一挙に数十万は楽にもうけるという、いわば目から鼻に…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」7

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (五) セットの終ったころ、田島は、そっとまた美容室にはいって来て、一すんくらいの厚さの紙幣のたばを、美容師の白い上衣のポケットに滑り…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」6

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (四) キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので、午後二時以後なら、たいていひまだという。田島は、そ…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」5

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (三) 田島は敵の意外の鋭鋒にたじろぎながらも、 「そうさ、全くなってやしないから、君にこうして頼むんだ。往生しているんだよ。」 「何も…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」4

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (二) 馬子にも衣裳というが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」3

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・行進 (一) 田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。 すごい美人。醜くてすごい女なら、電車の停留場の一区間を歩く度毎に、三十人くらいは発見できるが、すごいほど美し…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」2

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・変心 (二) 田島は、泣きべその顔になる。思えば、思うほど、自分ひとりの力では、到底、処理の仕様が無い。金ですむ事なら、わけないけれども、女たちが、それだけで引下るようにも思えない。…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」1

前回の投稿に「fridge」という短編小説を載せ、それは太宰治「令嬢アユ」へのオマージュみたいなものでもあると書きました。そして「こういういかにもな文体で何かを書くことはもうないと思う」と書きました。 「fridge」を書いたのは15年以上前のことで、…

カロリーメイトのこと

はじめてカロリーメイトを見た時、一体何なのか分からなかった。カチッとスクエアな箱の中から出てきたのは金属質のピチっとしたパッケージ。フィルムの下から現れたのはこれもやけに四角く成形された物体。食べ物だということだったが、このまま食べていい…

Banksyのこと

Banksy does new yorkの冒頭22分をIID世田谷ものづくり学校で3月6日15時から上映します→ http://setagaya-school.net/Event/15521/ トレーラーの中で「running up to public property and defacing it is not my definition of art (直訳:公共の施設…

シーン32

高畠は若い頃ニューヨークの大学に2年間留学していたらしい。美雪のような田舎の中学生にとってニューヨークというのは世界最先端のオシャレで遠い街というイメージしかなかった。ただ、高畠は最先端でもオシャレでもなく、安物の白いポロシャツと紺のスラ…

just qu-it

金曜日の夜に仕事が早く終わったのだが、村野は嬉しいともなんとも思わなかった。先週末は嬉しかった気がする。先週は楽しい予定があって、今週はそういうものがないというわけではない。先週も今週も忙しすぎない程度に適度な予定が入っていて、それらは全…

広告化社会の繁殖する柔らかな文体

生ぬるく柔らかな文体がネットの発展と広告のより深い浸透に伴い廃屋のカビのように繁殖している。 その文体で書かれた文章を絶対に読みたくはないのだが、不思議なことにとても疲れているときにはその文体で書かれたテキストを読んでしまう。たぶん何も考え…

京都から東京、2月、バイク、引っ越し and all: day 3

三軒茶屋の不動産屋から、下北沢のアパートへ向かう。今度も道は良くわからないが、時間の制限がないので気が楽だ。なんといっても鍵は僕の手の中にある。茶沢通りを北上して途中で一度道を間違えたが、すぐに下北沢。行き止まり路地の多い入り組んだ住宅街…

京都から東京、2月、バイク、引っ越し and all: day 2

ホテルのベッドで目を覚まし、テレビを点けて馴染みのない地域のニュースを見るのが好きだ。内容は特に気にならない。知らない土地で知らない人達が新しい1日をはじめようとしていて、その雰囲気が伝わって来るとどうしてか少し嬉しくなる。僕の知らない地…

京都から東京、2月、バイク、引っ越し and all: day 1

2015年2月8日、天気予報は今季最強の寒波がやってくると言い、僕はバイクで京都を後にした。 半年前のこの小さなバイクの旅、あるいは引っ越しのことを忘れてしまわないうちに書いておきたいと思う。とは言っても大体は既に忘れていて、さらにTシャツ…

狭い世界の外側の無数の専門的な広さ

パクリ問題で盛り上がるネットを見ていて、僕はコーヒーマニアのことを批判していた自分のことを恥じた。 まず、僕が持っていたコーヒーマニアに対する批判がどういったものなのか説明しておくと、だいたいは「本当はもっと別のことをしたいのに、それをする…

戦場のボーイズライフ序章「坂城」部分

-------------------------------------------------- ■ 坂城(1) -------------------------------------------------- 坂城(1) 「90歳なのに自在にインターネットを駆使して老後を楽しむおじいちゃん」というのが、今のところのマスコミの捉え方だ…

キティちゃん目覚まし時計3D修理

fab

小学生のときから20年以上使っているという目覚まし時計の修理依頼がありました。 修理とはいっても、クォーツのメカ自体は正常に動いていて外装に欠損があるだけです。欠損箇所は2箇所で、オーソドックスな目覚まし時計の頭に付いている「ピピピピッ!」…

color me pop

飛行機が離陸するとき、いつも鳥肌が立つ。地面から足が離れてしまう恐怖からでも、閉所に閉じ込められた恐怖からでもなく、この巨大なテクノロジーの塊が纏っている人類の知力と労力に圧倒されるからだ。航空力学、ジェットエンジン、構造設計、素材、塗料…

虚構として肥大した情熱とやりたいことの消失

1999年。僕は20歳で、ロバート・ハリスの「ワイルドサイド歩け」という本を読んでいた。「ワイルドサイドを歩け」というのは、有名なルー・リードの曲のタイトルだ。この本は比較的短いエッセイが集められたもので、今読み返すとなんだか若くてフレッ…

短編小説: 社説『着用トイレの普及について』

社説『着用トイレの普及について』 国内最初の着用トイレ『TON101』が売り出されてから、早くも20年が経過した。国内メーカーで着用トイレを生産しているのはIOIO,IMAXの2社。各社半年毎のモデルチェンジを重ね、今ではその薄さも1ミリを…

東京ハイパーリアル:彼女はシミュラークル

東京の空気の匂いは独特かもしれないが、それは自動車の排気ガスの所為ではなく地下から微かに立ち昇って来る下水の臭いだ。大都市1300万人が地面の下に押し込む糞尿と汚水が、無機素材で覆われた街へ漏れ出している。人口密度が高いなら、当然それに伴…